電話・電卓・5枚複写の伝票といったアナログツールを使い、日々膨大な管理業務に追われていた株式会社ハマヤ。
有川さんが専務取締役として入社してからは、アナログ業務を抜本的に改革。膨大な時間の捻出に成功し、自社ブランドやITコンサルティング事業の立ち上げなど、順調に事業規模も拡大しています。
しかし、ここに至るまでには数々の苦難や壁がありました。今回は、実際にDX改革を推進した有川さんと町田さんにDX改革に至る経緯や成功のポイントについてお話を伺いました。
経営状態がリアルタイムでわからない状況だった
ーーまず御社の事業内容と、有川様の経歴について簡単に教えてください。
創業50年を迎える手芸用品の卸売を行う株式会社ハマヤで専務取締役をしています。
前職では先端工学分析のソリューションを提供する専門商社に勤めておりました。
町田くんとはそこで4年ほど一緒に仕事をし、そのなかで組織改革や組織活性化の活動をしておりました。しかしながら大きい組織を変革することは容易ではなく、この頃から「理想の組織とは何か」という問いを常に考えていました。
その後、特に転職も考えず2016年に会社を退職しました。
当初、会社を立ち上げる予定だったのですが、家業のハマヤが事業承継の問題を抱えていたんですね。
「家業に入ってくれないか?」と打診されて、そのことを町田くんに相談したら「面白そうだしやってみましょう」と言っていただき、2016年7月にハマヤに入社しました。
株式会社ハマヤの事務所
現在は手芸卸売事業に加え、2014年に始めた楽天のモールでEC・小売り事業、2018年に立ち上げたITコンサルティング事業部、合計3つの事業をしています。
ーーDX改革をする前はどのような課題を抱えていましたか?
課題だらけで、どれからお話しすれば良いかわかりませんが(笑)まず従業員の平均年齢が70歳を超えていたことと、20人くらいの規模なのにパソコンが2台しかなかったことですね。
なので、電卓を使ったり筆算したり、複写伝票を使ったりするのが当たり前の状態でした。
それよりも危機感を持ったのはリアルタイムで経営状態がわからないこと、そして誰もリアルタイムで把握する必要性を感じていない状況でした。
売り上げや利益を聞いても半年前のデータが出てくるような状態で……。
ーー売り上げは、紙や帳簿で管理されていたんですか?
TKCという販売と会計のソフトウェアを使ってました。
毎月、顧問税理士が来るのですが、データ入力が追いついていないんですね。
税理士さんが代わりにデータを入力しようとするのですが、数が膨大で追いつかず後手後手の対応になっていました。
そもそも、「社内の業務も〇〇さんしかできない」、「税理士さんが来ないと進まない」、など属人的になっていたことも大きな問題でした。
すべての業務に関わり、改善点を洗い出す
ーーさまざまな問題が山積するなかで、どのようにDX改革を進めていったのでしょう?
まず、基本的なところから社内の整理整頓とDX改革に最低限必要となるパソコンやスマートフォンといったツールやインフラ、ネットワーク環境を整備しました。
とはいえ、組織の現状や内情を把握せずに動くわけにもいかなかったので、まず積極的にすべての業務に関わって改善点を洗い出し、それに必要なデジタルツールやシステムを揃えていきました。
ーーDX改革を進めるなかで、特に苦労した面、大変だった面はありますか?
DX改革を推進するための時間の捻出が一番苦労しました。当初は業務が複雑化していたので、業務を遂行するのに精いっぱいで……。
また、DX改革するにも成功事例もナレッジも社内に蓄積されていなかったので、どうやってスモールサクセスを積み上げていけば良いか……。この部分も大変でした。初めの頃はストレスで病気になりそうでした(笑)
ーー既存の業務オペレーションの運用や維持をしながら、新しいデジタルツールの導入を進めるのはエネルギーを要しますよね。最初はどの領域から取り組みましたか?
販売管理や会計管理といったバックオフィス業務ですね。
既存で契約していた販売管理や会計管理ソフトはユーザビリティが悪いと感じていたので、すべて廃止し弥生会計ソフトに切り替えました。
その他の業務は当初エクセルで効率化していましたが、個人単位の管理になっていてデータに整合性がとれない状況になっていました。
エンジニアの若井君がジョインした2018年の夏ごろから、クラウドシステムに移行しました。
ーー新しいシステムを浸透させるまでには時間がかかると思いますが、特にどのようなポイントを意識しましたか?
マニュアルを作ったのですが読んでくれなくて(笑)質問がくるたびに業務が止まるので、かえって非効率になってしまいました。
途中からはOJTを通して覚えてもらう形にしました。
また「このシステムを活用すればミスも減って、お客さまにも迷惑がかからないよ」みたいに、導入するメリットを伝えるように意識しました。
従業員にもデジタル化の改善案を出してもらい、積極的に社内システムの構築に参加してもらうようにしました。
そうすることでBefore&Afterが体感できてモチベーションも上がりますよね。
ーー話をお聞きしていると、ドラスティックにDX改革をされていると感じました。反対の意見は挙がらなかったのでしょうか?また、どのようにして反対意見の人を説得し、改革を進めたのでしょう。
結論から言うと、かなりの人が辞めていきました。
平均年齢70歳でいきなりデジタル化は難しいだろうと思っていましたが、予想以上に退職者が出ました。
ーー裏を返せば、DX改革をするなら人が離職することも覚悟する必要があると?
組織の状況によりけりだとは思いますが、覚悟して進めることは重要です。
それはITコンサルティングのお客さまにも必ず伝えています。
従業員の想像力や創造性を尊重する
ーー退職者が出たあと、どのような基準で採用をしていましたか?
DX改革をするといっても、エクセルやワード、SNSを操作できる程度のITリテラシーで十分だと思うんですね。
それよりは、さまざまな仕事に前向きに取り組む素直さや人となりを重要視していました。
ーーたしかに。組織が変革していくにあたって重要な資質ですよね。新しいことに取り組んでもらうために、工夫したことがあれば教えてください。
2つあって、1つ目がビジョンの共有ですね。年1回の全社集会で今後のビジョンや方向性を伝えています。
また、朝礼でも会社を良くしたい気持ちや情熱、会社を通して社会に提供したいことを発信するようにしています。
だいぶ暑苦しい会社ではありますが、こういう熱量は大切にしたいなと思っています。
2つ目が、これやってみたい、あれやってみたい、こういうところが不便みたいな声やアイデアを否定せずに尊重することですね。
従業員の想像力や創造性を否定しないことは、この会社にジョインする前から大切にしています。
今までは、パートさんにピッキングやパッキングといった業務が中心でしたが、今は売り方や商品選定まで一緒に企画してもらっています。
それこそ社員もパートさんも関係なく、皆同じ視点で企画や運営をしていますね。
DX改革で、合計5760時間の削減に成功
ーー次に、DX改革によって得られた成果について教えてください。
分かりやすい成果でいえば、利益率が9%から30%になったことですね。
また、DX改革で成功した自社のノウハウを活かし、新しくITコンサルティング事業部も立ち上げました。
もともと手芸屋向けに始めましたが、現在はさまざまな業界にサービスを提供しています。
また、ITコンサルティングだけでなく、開発、人材紹介などもあわせて行うまでに事業成長しました。
移転した新しいオフィス
業務効率の改善においては、特に発注管理の部分で大きな効果を得られました。
もともと、メーカーごとに分類したビニールのポケットに従業員・パートが手書きメモを入れて、発注日になったらメーカーの発注担当がポケットから紙を取り出し、手書きで発注書を作成するという非常にアナログな発注管理をしていました。
60くらいあるメーカーごとに担当者がいたので、誰がいつ何の発注をしているかわからない状態でした。
例えば、Aというメーカーは月曜日に発注すると思ってメモを入れていますが、メーカー担当は送料無料しきい値を考慮して「今回は発注をしない」と勝手に判断するんですね。
そうすると、発注担当は発注日の変更をお客さまに連絡しないといけなくなって……。
こういった無駄なやり取りが多く発生していました。
この状況を改善するために、スプレットシートをベースにした発注管理システムを開発しました。
従業員がスプレットシートにデータを入力すると自動集計されて、送料無料しきい値も一目でわかるようになりましたし、ワンクリックでメーカーごとの注文書も出力できるようになりました。
結果、これだけで年間約2,000時間、全体の成果では年間約5,760時間ほど削減できました。
ーー5,760時間……!非常に大きな成果が出たんですね。
我々はもともとデジタル化を進めたかったわけではなくて、あくまで残ってくれた従業員のクリエイティブな部分を引き出し、十分に力を発揮できる機会を作りたかったんですね。
自社ブランド「amioto(アミオト)」の立ち上げも、僕と町田はほぼ関わらず正社員1名とパートさん主体で進めてくれました。
今はしっかり売れていて、本当に良い結果につながって良かったと思っています。
ーー今後の展望について教えてください。
手芸卸売事業やEC販売事業に関しては、クリエイティブな商品企画に全員が参加できる環境整備と、そこに必要なシステムの導入は引き続き検討していきたいと思ってます。
またITコンサルティング事業をとおして、弊社のDX改革の成功体験をさまざまな企業様に提供していきたいです。
ただ、ITコンサルティングは専任担当者をつけないと案件成立しないケースも多くなってきています。
将来的には従業員の増員も検討しています。
弊社では、土曜日に経営者層だけでやりたいことを目一杯する時間を設けています。
外部の人も気軽に参加できるオープンにしています。ちなみに、現在CTOを務めている若井くんはこの活動をきっかけで入社してくれました。
そんな感じで、長い目で採用ができれば良いなと思っています。
有川 祐己 さん
株式会社ハマヤ 専務取締役 / 京都商工会議所青年部理事 / SIGYO IT 運営事務局 オーガナイザー
1979年生まれ、京都府出身。ロボコンに憧れ大学工学部へ進学。研究開発専門商社へ入社後、より大きなプロジェクト参加を求め業界最大手の商社へ転職。海外(中国)事業所にマネージャーとして赴任し、ビジネス(意思決定)のスピードに強い刺激を受ける。日本に戻りより強い組織作りに挑戦するも、進まない改革と力量に感嘆する。そのタイミングで夢を語れる後輩と、起業を誓い退社。その数カ月後に、事業承継の話があり、株式会社ハマヤの経営部門としてジョイン。単年度数千万円の赤字を、組織改革(DX推進)し、3年で黒字化。”なにをするか”より、”誰とするか”を大切に、今までもこれからも挑戦し続ける。
町田 大樹 さん
株式会社ハマヤ 執行役員 / 一般社団法人日本スタートアップ協会 運営事務局 / SIGYO IT 運営事務局 マネージャー
1985年生まれ、大阪府出身。2008年大学在学中にインポートブランド輸入会社を起業。アメリカ(ニューヨーク、ロサンゼルス)、イギリス、フランス、イタリア、中国(上海、北京、香港)など他国に渡り日本の良さ・心地よさに気づく反面、日本の海外でのブランド力の低さにショックを受ける。日本が世界でもっと羽ばたく力添えになりたいと強く感じるようになり、会社を清算。経験を積むため、日本の基幹産業である製造業界で産業機器・システム販売をおこなう専門商社に営業として従事し、入社3年目で営業所トップ成績を残す。同社で出会った先輩と「日本初、宇宙着の企業をつくる」という大きな夢で意気投合し、同社を退社。同時に、株式会社ハマヤから経営立て直しの依頼を受け経営参画。数千万円の赤字体質だった同社のDX改革に取り組み3年で黒字化までV字回復させた。同社では社内の組織編成、業務フロー改善、EC事業体制構築、新規事業立ち上げと幅広く従事。得意分野は1→10の仕組み化、脱属人化の体制づくり。