自身の所属している組織の生産性が下がっている、うまく機能していないと考える人は多いのではないでしょうか。
サボタージュマニュアルとは、第二次世界大戦の際にCIAが敵国の生産や行政の効率を低下させるためにサボタージュ活動を指南するもので、敵国内にいる一般市民やレジスタンス活動家向けに作成されたものです。
本記事を通してサボタージュマニュアルを知ることで、逆説的に組織の問題点を認識し、強い組織づくりのヒントにすることができます。
この記事の内容
サボタージュマニュアルとは?
「サボタージュマニュアル」(正式名称は「単純サボタージュマニュアル」)は、第二次世界大戦中にアメリカの中央情報局(CIA)の前身である戦略事務局(OSS)が作成した文書です。
スパイとして敵組織に潜入し、サボタージュマニュアルに沿って組織活動を妨害することを目的としています。
原文はCIAのサイトで公開されており、
一部、日本語訳されたものを引用すると、
- 常に文書による指示を要求せよ。
- 誤解を招きやすい指示を出せ。意思統一のために長時間議論せよ。さらに出来る限り不備を指摘せよ。
- 準備を十分行い完全に準備ができているまで実行に移すな。
- 高性能の道具を要求せよ。道具が悪ければ良い結果が得られないと警告せよ。
- 常に些細な仕事からとりかかれ。重要な仕事は後回しにせよ。
- 些細なことにも高い完成度を要求せよ。わずかな間違いも繰り返し修正させ小さな間違いも見つけ出せ。
- 重要な決定を行う際には会議を開け。
- もっともらしくペーパーワークを増大させよ。
- 通達書類の発行や支払いなどに関係する決済手続きを多重化せよ。すべての決裁者が承認するまで、仕事を進めるな。
- すべての規則を隅々まで厳格に適用せよ。
- 何事をするにも「通常のルート」を通して行うように主張せよ。決断を早めるためのショートカットを認めるな。
- 可能な限りの事象を委員会に持ち込み「さらなる調査と熟考」を求めよ。委員会のメンバーはできるだけ多く(少なくとも5人以上)すること。
- 議事録や連絡用文書、決議書などにおいて細かい言葉遣いについて議論せよ。
- 以前の会議で決まったことを再び持ち出し、その妥当性について改めて問い直せ。
- 「警告」せよ。他の人々に「理性的」になることを求め、将来やっかいな問題を引き起こさないよう早急な決断を避けるよう主張せよ。
- あらゆる決断の妥当性を問え。ある決定が自分たちの管轄にあるのかどうか、また組織上層部のポリシーと相反しないかどうかなどを問題にせよ。
というような内容になっています。ざっくりまとめると、
- 目的よりも手段を優先させる
- 全体の進捗よりも、細部にこだわらせる
- 自責よりも他責にできる仕組みを作る
という点にまとめることができます。
狙っていなかったとしても、このような体制になってしまっている組織は多く存在します。逆に言えば、サボタージュマニュアルについて知ることで、組織の健全化を図ることが可能になります。
ここからは、それぞれの点について詳しく解説します。
目的よりも手段を優先させる
まず、「目的よりも手段を優先させる」という点については、
マニュアルでいうと、以下に該当します。
- 常に文書による指示を要求せよ。
- 高性能の道具を要求せよ。道具が悪ければ良い結果が得られないと警告せよ。
- すべての規則を隅々まで厳格に適用せよ。
- 何事をするにも「通常のルート」を通して行うように主張せよ。決断を早めるためのショートカットを認めるな。
組織が大きくなると、効率的に人を動かすためにルールが作られることが多いですが、ルールが本来の目的を失い、人を振り回すようになると本末転倒です。
本来なら、ルールは何度も起こりうることを都度考えなくても良いように簡便化するためのものなので、それが思考することを奪ってしまうと結果的にパフォーマンスの低下につながります。
手段や方法を決めること自体は問題ではありませんが、その裏にどんな目的があったのかは忘れないようにしなければいけませんね。
全体の進捗よりも、細部にこだわらせる
次に、「全体の進捗よりも、細部にこだわらせる」という点について、
マニュアルでは以下の部分に該当します。
- 誤解を招きやすい指示を出せ。意思統一のために長時間議論せよ。さらに出来る限り不備を指摘せよ。
- 準備を十分行い完全に準備ができているまで実行に移すな。
- 常に些細な仕事からとりかかれ。重要な仕事は後回しにせよ。
- 些細なことにも高い完成度を要求せよ。わずかな間違いも繰り返し修正させ小さな間違いも見つけ出せ。
- 議事録や連絡用文書、決議書などにおいて細かい言葉遣いについて議論せよ。
日本の文化的に、気にする方も多いため、重要な部分もあります。
しかし、細部にこだわるのは最後の最後で、まずは80%でも良いので大枠を完成させることの方が重要です。
自責よりも他責にできる仕組みを作る
最後に、「自責よりも他責にできる仕組みを作る」という点について、
マニュアルの中では以下の部分が該当します。
- 重要な決定を行う際には会議を開け。
- 通達書類の発行や支払いなどに関係する決済手続きを多重化せよ。すべての決裁者が承認するまで、仕事を進めるな。
- 可能な限りの事象を委員会に持ち込み「さらなる調査と熟考」を求めよ。委員会のメンバーはできるだけ多く(少なくとも5人以上)すること。
- 以前の会議で決まったことを再び持ち出し、その妥当性について改めて問い直せ。
- 「警告」せよ。他の人々に「理性的」になることを求め、将来やっかいな問題を引き起こさないよう早急な決断を避けるよう主張せよ。
- あらゆる決断の妥当性を問え。ある決定が自分たちの管轄にあるのかどうか、また組織上層部のポリシーと相反しないかどうかなどを問題にせよ。
物事の意思決定をする際に、多くの部門を通すことで厳格な判断をすることは可能ですが、それによってスピードと責任感が失われていくのが問題になります。
ある程度のことは権限譲渡して自分の責任で決められるような仕組みが必要です。
得てして、多くの部門の稟議を通す組織とかの末端のメンバーは自分の上げている稟議に対して責任を持っていなかったりします。
会社の弱体化を防ぐ方法
サボタージュマニュアルには、組織の機能を低下させ、メンバーの士気を下げるための多くの指示が含まれています。
このマニュアルは第二次世界大戦中に作成され、一般企業というよりも、政府機関や警察などの国の重要機関を弱体化させることを目的としていました。
現代でも残る官僚主義的な手続きや、大企業に見られる旧態依然とした運営方式は、大戦中のサボタージュ戦術の影響の一部かもしれません。
では、企業でこれらの問題が多く見られる場合、どのようにして企業の弱体化を防ぐべきでしょうか。
弱体化のポイントは「非効率化」にあります。そこで、業務の効率化を図り、人為的な怠慢が影響しないようにシステムやITを活用することが有効です。
具体的には、ペーパーレス化を進めて承認フローをIT化し、「見える化」を実現することが挙げられます。これにより、担当者が変わっても一貫した運用が可能になります。また、会議の手順と時間を事前に決めるなどの工夫も効果的です。
さらに、効率化の達成度を管理職や社員の評価基準に組み込み、非効率的な行動を取る社員を特定することも有益です。これにより、企業全体の効率を向上させ、サボタージュによる弱体化を防ぐことができます。
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営業チームに潜む“サボタージュ行動”の例
営業チームが本来のパフォーマンスを発揮できていない原因として、意図せず組織を停滞させる“サボタージュ行動”が潜んでいるケースがあります。これらは明確な悪意がなくても、結果として商談や意思決定を妨げ、組織全体の成果に大きな影響を与えます。以下に、営業現場でありがちな具体例を紹介します。
会議が目的を見失い、時間を浪費する
「全員の共有のため」と称して定例会議を長時間化し、本来の議題とは関係のない話で脱線するケースです。これはサボタージュマニュアルにある「不必要な会議を増やし、結論を出さない」という行動に該当します。
細部への過度なこだわりで前進を妨げる
提案資料に対して「表現を変えて」「フォントを統一して」といった微調整を何度も求め、顧客対応よりも社内の“仕上げ作業”に時間を費やす。結果として機会損失が発生します。
意思決定の分散でスピードが失われる
「〇〇部長にも念のため確認を」と承認ルートを引き延ばし、スピーディな判断ができない。これは、合意形成を過剰に重視して動きを止める典型的な停滞要因です。
サボタージュ的行動を防ぐには? 営業チームの守り方
サボタージュ的行動は、放置すると営業組織のスピードと信頼を徐々に損なっていきます。しかし、少しの工夫とルール設計で防ぐことが可能です。ここでは、営業現場で今すぐ実践できる対処法を紹介します。
会議は「ゴール・時間・進行役」を明確化
アジェンダを事前に共有し、会議内で決めるべきことを明確に設定します。進行役(ファシリテーター)を立てることで議論が逸れるのを防ぎ、時間通りに終了できます。
承認・判断ルールを簡潔に定義する
どのレベルの判断を誰が行うのかを明文化することで、承認のたらい回しや「誰が決めるのか分からない」状態を回避できます。「この金額までは営業マネージャー判断でOK」などのルール設定が有効です。
結論ファースト文化と仮決定の導入
報告や提案は「結論→理由→選択肢」の順で行い、上司やチームの判断をスムーズに促します。細部の調整は後回しにし、まずは仮決定で前に進める文化が、組織の機動力を高めます。
営業マネジメントにサボタージュマニュアルを活かす方法
一見ネガティブに思える「サボタージュマニュアル」ですが、その内容は裏を返せば“組織の非効率をあぶり出すヒント”とも言えます。営業マネジメントにおいても、このマニュアルを“逆読み”することで、チームを停滞させないための重要な改善策が見えてきます。
停滞のサインを“未然に察知”する
サボタージュマニュアルに記載されている行動の兆し——頻繁な会議、承認の複雑化、曖昧な責任範囲など——をマネージャー自身が敏感に察知することが第一歩です。「最近、結論が出るのが遅い」「会議で目的を見失いがち」といった現象は黄色信号と捉えましょう。
“逆転の発想”でマネジメントルールを設計する
「会議を頻繁に行え」という指示があるなら、「会議の頻度は週1に制限」「アジェンダ必須」と逆の仕組みを導入するべきです。「多くの承認を得よ」であれば、「1クリック承認」「2名以内で完結する体制」を作るなど、ルールの最適化が鍵になります。
チームに“目的の共有”と“意思決定の自走”を促す
サボタージュ行動の多くは、“目的の見失い”と“責任のあいまいさ”から生まれます。だからこそ、チーム全体で「なぜこれをやるのか」「誰が決めるのか」を常に共有し、個々が自立して判断できる土台をつくることが、強い営業組織をつくる近道です。
まとめ
本記事では、サボタージュマニュアルについて解説してきました。
第二次世界大戦中に作成されたサボタージュマニュアルには、敵国を弱体化させるための諜報員向けの指示が記載されていますが、その内容は現代の企業にも多く当てはまることがわかっていただけたと思います。
意図的ではなくても、このような体質になっている企業は、すでに競争力を失っている可能性が高いです。この影響の深刻さを考慮し、該当する事態に対しては迅速に対処する必要があります。