商品作りやマーケティングでは「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という概念がベースとなっていました。
両者の違いやメリット・デメリットはどのような点なのでしょうか?
本記事では、プロダクトアウトとマーケットインについて事例をまじえて解説します。
これからの時代に求められるアプローチ方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の内容
プロダクトアウトとは
「プロダクトアウト」とは、作り手側の理論や技術を優先させて商品を開発したり生産したりする方法を言います。
具体的には、以下のような考え方です。
・これが良いと思うから作る
・作れる技術や設備があるから作る
・人員リソースがあるからこれだけ生産する
プロダクトアウトは基本的に「良いものを作れば売れる」という考え方のため、製品を作ってから売り方を考えます。
かつてはプロダクトアウトのビジネスが主流でしたが、企業主体の考え方なので「消費者ニーズを無視している」と認識され、プロダクトアウトからの方向転換が謳われるようになってきました。
しかし、自社の強みを活かしたプロダクトアウトの製品で、消費者の潜在ニーズを満たしたことにより成功した企業も少なくありません。
プロダクトアウトのメリット
プロダクトアウトは、企業がもっている技術やオリジナルアイデアなどを基にして製品を開発するので、自社の技術力の高さをアピールできます。
独自性の高い製品を作ることができれば競合他社との差別化にもなり、目新しさで爆発的に売れることも期待できます。
他社が真似できない製品であれば「この製品と言ったらこの会社」というイメージにつながりますし、顧客はリピーターになりやすく市場シェアを拡大できる可能性を秘めています。
またプロダクトアウトで製品を開発・生産すれば、余計なコストやリソースはかからないというメリットもあります。
プロダクトアウトをベースにした製品開発では、すでにもっている技術や設備を活用するため、新しく設備投資をしたり人員を増やしたりする必要がありません。
市場調査や過去の分析も不要なので、余計なコストをかけずに製品開発をすることができるのです。
プロダクトアウトのデメリット
プロダクトアウトは企業を起点にした考え方ため、世間のニーズや流行に合わないものを開発・提供してしまう可能性をはらんでいます。
せっかく多大なコストやリソースをかけて開発したものでも、ニーズに合わなければ売れないという結果になり、開発費・生産費・広告費・人件費などのコストなど大きな損失を出してしまうでしょう。
プロダクトアウトの製品は爆発的に売れる可能性を秘めている一方で、失敗のリスクも大きいと言えます
プロダクトアウトの事例
プロダクトアウトで製品を開発して成功した事例もたくさんあります。
代表的なのは、SONYのウォークマンと、Apple社のiPhoneです。
SONY ウォークマン
SONYが開発したウォークマンは、1979年に初代のカセットタイプ、1984年にはCDタイプが登場しました。
今は外出中でもスマホなどで音楽を聴くことができますが、当時はポータブルの音楽再生機器はとても珍しく、SONY内でも反対する人もいたのだとか。
しかし音楽再生機器を小型化して持ち運びできるようにしたことは幅広い層のユーザーの心をつかみ、ご存知の通り大ヒット商品となったのです。
音楽再生機器を小型化するというSONYの技術力あってこその成功でした。
Apple iPhone
今やガラケーに取って代わり、日常的なツールとして浸透しているiPhone。
電話という価値だけでなく、情報収集や商品購入、動画視聴やコミュニケーションまで幅広い用途で使われています。
そんなiPhoneですが、初代が登場した2007年当時は携帯電話に慣れ親しんだユーザーからの反感も買っていました。
しかし「板のような薄型の電話」「ボタンではなくタッチパネルでの操作」という今まで誰も思いつかなかった電話の形を世に送り出したことで、ユーザーの目新しさを引き大ヒットしました。
今や「iPhoneかAndroidか」と言われるほど、スマートフォン市場でシェアを誇っていることはご存知の通りです。
マーケットインとは
「マーケットイン」とは、ユーザーのニーズを元にした商品開発をすることで、プロダクトアウトと対をなす概念です。
マーケットインが広まったのは、バブル経済が崩壊して消費者の財布の紐が固くなり「良いものを作れば売れる」という時代も過ぎ去ったことが背景にあります。
企業の生産活動も「良いもの」ではなく「消費者に選ばれるもの」にシフトし、開発や製造の方法が見直されるようになってきました。
こうしてマーケットインの発想が生まれ、消費者のニーズを優先した商品作りが行われるようになったのです。
マーケットインのメリット
マーケットインでは消費者のニーズに合わせた製品を作るため「全然売れなかった」という結果にはなりにくく、ある程度の売上見込を立てることができます。
一定の売上があるため開発や宣伝にかけたコストも無駄にはならず、大きな損失を出すことはないでしょう。
ユーザーのニーズを基盤にした商品開発なので、ユーザーのエンゲージメントも獲得しやすいです。
「この会社なら私が本当に欲しているものを作ってくれる」という信頼感につながり、アップセルやクロスセルも生み出しやすい傾向があります。
マーケットインのデメリット
マーケットインはユーザーのニーズを優先しているということは、逆説的に言うとユーザーのニーズに沿っていないものは開発しにくいとも言えます。
そのためプロダクトアウトのように「目新しいもの」「思いつかなかったもの」はマーケットインではほとんど生まれません。
マーケットインの製品は一定のユーザーのニーズを満たすということは明らかなのである程度は売れますが、プロダクトアウトのように爆発的なヒットにつなげることは難しいでしょう。
また、競合他社も同じような製品を作ってしまう可能性もあります。
顕在ニーズであればなおさらどの企業も着目するため、自社商材と同じような商品があふれてしまうことも。
類似品が多くなってしまうので、自社独自の技術や機能・性能を取り入れた商品にしなければ手に取ってもらえないリスクがあります。
マーケットインの事例
ユーザーのニーズを取り入れたことで成功した企業も数多くあります。
そのうち3つの事例をご紹介します。
iPhone登場後のスマートフォン
iPhoneが大ヒットしたことでユーザーのニーズがあるということを理解し、各社はiPhoneのような形の電話「スマートフォン」の開発に着手しました。
今では、iPhoneと同じ薄型でタッチパネルの電話という形をベースにして、ユーザーニーズを盛り込んだ多彩な機能を搭載しているスマホが展開されています。
USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)
2001年に開園したUSJですが、開園当初はハリウッド映画をテーマにしていたため、日本人のニーズにマッチせずに苦戦を強いられていました。
そこでユーザーのニーズに着目し、日本のアニメやハリーポッターなどの人気コンテンツを取り入れたことで入場者数が増加。
ユーザーのニーズに沿ってコンセプトを転換したことで成功した事例です。
缶コーヒー
今では自動販売機で手軽に缶コーヒーが買えることが当たり前の時代ですが、もともと缶コーヒーもマーケットインから生まれた製品です。
アサヒ飲料がビジネスパーソンを対象に調査した結果、出勤前の朝のちょっとした時間に飲めるコーヒーのニーズがあることを知り、手軽にコーヒータイムができる缶コーヒーが生まれました。
プロダクトアウトとマーケットインの違い
前項までで、プロダクトアウトとマーケットインのメリット・デメリットを理解していただけたのではないでしょうか?
両者の違いについてまとめると、マーケットインでは「売れるモノを作る」という考え方が根幹にあるのに対して、プロダクトアウトでは「良いモノであれば売れる」という考え方が根幹にある点に大きな相違点が見られます。
また、マーケティング(自社の製品が売れる仕組みを作ること)との関係性から両者の相違点を考えると、マーケットインの方がプロダクトアウトよりもマーケティングの考え方に沿っているといえます。
プロダクトアウトとマーケットインはどちらが最適か?
「結局、ユーザーのニーズに沿ったマーケットインをやるべき?」という声が聞こえてきそうですが、実は一概にそうとも言い切れません。
スマホやインターネットの進化により、消費者自ら情報収集をして買いたい商品を取捨選択できる時代になっているため、ユーザーニーズ主体の商品開発が必須なのは事実です。
しかし、マーケットインでは革新的なものや画期的なものを生み出せないため、市場には似通った商品ばかりが流通してしまい、価格競争が激しくなることが懸念されます。
その点、プロダクトアウトの商品は新しい市場を切り開く可能性もあります。
そこで注目されているのが、プロダクトアウトとマーケットインの融合。
Apple社のiPhoneの「実はユーザーはこんなものを欲しがっていた」という事例にもあるように、ユーザーの潜在的なニーズを読み取って革新的な商品を開発することが成功の秘訣なのです。
幸いなことに、今はテクノロジーが進歩して膨大なデータを多角的に分析することが可能になっています。
ITを活用してさまざまなデータを分析してユーザーのインサイトを把握し、誰も思いつかないような革新的な商品を開発するアプローチが求められているのです。
プロダクトアウトとマーケットインで重要なユーザーインサイトとは?
マーケットインやプロダクトアウトの手法だけに囚われず、これらを融合させて、顧客がまだ気付いていない潜在的なニーズに応える製品を開発する姿勢が、企業の持続的な成長と競争優位性の確立に不可欠です。
このためには、フレームワークを活用した体系的な分析、市場調査による顧客の深い理解、そしてCRM/SFAを通じたデータ駆動のインサイトの活用が非常に重要です。これらの手法を駆使して、企業は顧客の想像を超える製品を提供し、変化する市場で成功を収めることができるでしょう。
ユーザーインサイトを把握する3つの方法
これからの商品開発でポイントとなるユーザーのニーズやインサイト。
潜在的なニーズとはどのようにして把握したらいいのでしょうか。
ここではユーザーのニーズを分析する方法として、3つの手段をご紹介します。
フレームワークでの分析
フレームワークを活用して客観的に分析することで、ユーザーの隠れたニーズを読み解くヒントを得られるかもしれません。
自社の強みや弱み、既存顧客の分析にも役立つので、できるだけフレームワークでの分析に取り組みましょう。
顧客分析に活用できるフレームワークとして代表的なものは「4C分析」です。
具体的には、Customer Value(顧客にとっての価値)/Cost(顧客にとってのコスト)/Convenience(顧客にとっての利便性)/Communication(顧客とのコミュニケーション)の4つの軸で自社商材を分析する手法です。
ユーザー目線の分析のため、ユーザーのニーズがつかみやすいでしょう。
関連記事:顧客満足度(CS)とは?向上のポイント・ツール7選と具体事例
市場調査
ユーザーのニーズを理解するためには市場調査も効果的です。
会場調査やインタビューなど市場調査の種類はさまざまですが、インターネットでユーザーとコミュニケーションが取れる現代ではアンケートサイトやSNSなどでアンケート調査をするのもおすすめします。
ユーザーは手軽に回答できるため、回答数が極端に少ないという結果を回避できます。
ただし、ユーザー自ら回答する市場調査では顕在ニーズは把握できますが、ユーザー自身も気づいていない潜在ニーズはなかなか調査することができません。
質問内容を工夫したり、回答結果をさらに分析したりして、潜在的なニーズを導きましょう。
CRM/SFAの活用
自社とマッチするユーザーニーズを把握するためには、既存顧客の分析も欠かせません。
CRMやSFAに蓄積されている顧客データや購買データなどから、ユーザーの動向やニーズを探りましょう。
顧客データと、過去の商談内容や購買実績をクロス分析することで、「この業界の人はこのような課題が多い」「この属性の人たちは、実はこんな商品を欲しがっていた」などの傾向が見つかります。
実際の顧客データに基づいた分析なので精度が高い結果を得ることができるでしょう。
関連記事:
終わりに
プロダクトアウトとマーケットインは、かつては対義する言葉として使われていました。
しかしニーズが多様化している現代では、プロダクトアウトとマーケットインを融合して商品を生み出すアプローチが求められているのではないでしょうか。
ユーザーのインサイトを導き出すためには、ITツールの活用は不可欠です。
今一度、自社の顧客を正確に分析してインサイトを見つけるために、CRM/SFAの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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