金融機関のDX推進が迫られている中、CRMの導入は検討を避けて通れません。2025年の崖に向けた対応や、多様化する顧客に対するコミュニケーションをどう管理するかなど、CRMは様々な課題を解決する手段のひとつです。
この記事では、銀行をはじめとする金融機関がCRMを導入する意義とメリットを紹介していきます。また、CRMシステムをうまく導入するためのポイントと注意点も詳しく解説します。
この記事の内容
銀行や金融業界でCRMが重要視される理由
銀行や金融業界において、なぜCRMが重要なのか、その理由を3つ紹介しましょう。
- 「2025年の壁」への対応を迫られているから
- 顧客とのコミュニケーションが変容しているから
- 営業担当ごとにサービス品質のばらつきがあるから
「2025年の崖」への対応を迫られているから
2025年の崖とは、IT人材の不足によって老朽化・複雑化したシステムから脱却できず経済損失を引き起こす現象です。老朽化したシステムに対応できない場合、DX化が遅れ、約12兆円の経済損失を引き起こすリスクがあると言われています。
システムの安全面を重視する金融業界ではアナログによる管理が多くなっています。2025年の崖は金融業界も直面している技術課題です。課題解決のために、DX推進とセキュリティ確保の両立が急務となっています。
CRMを導入し顧客対応を効率化することで、電話や対面営業に頼らないやり方に接客を変えていくことが期待できます。こうした取り組みを通じて、2025年の崖への対応を進めていく必要があるのです。
顧客とのコミュニケーションが変容しているから
顧客とのコミュニケーションは、従来の対面営業から、メールやLINE、アプリ通知など多様な媒体に変わりつつあります。
接客の方法が多様化しており、管理すべき顧客情報や交渉履歴は急速に増えていきます。そのため、従来のシステムでは対応が難しくなっているのが現状です。
CRMは、増え続ける顧客情報や交渉履歴を効率的に管理できるツールとして、注目を集めています。金融業界での導入も進んでいるのです。
営業担当ごとにサービス品質のばらつきがあるから
金融機関では、営業担当の間でサービスの品質にばらつきがあると言われます。たとえば接客の丁寧さや商品提案に対する評価など、担当者の間で評判には差があります。こうしたばらつきが生じる原因は、顧客情報をそれぞれの社員が個別に管理するためです。
CRMを導入すれば、顧客情報を社内全体で共有できます。すべての営業担当が同じように管理された情報にあたることで、担当者全員が顧客のニーズや好みに合わせて対応できるようになるでしょう。
経験の浅い担当者でも、顧客情報を事前にリサーチできれば、顧客満足度の高いサービスを提供しやすくなります。どの営業が担当者になっても、安定した品質のサービスを提供可能です。
銀行・金融業界でCRMを導入するメリット
銀行や金融業界でCRMを導入するケースが増えています。CRMを導入するメリットは多いですが、特に以下の7つは大きなメリットです。
- 顧客情報の一元管理に役立つ
- 顧客満足度の向上につながる
- 情報の伝え漏れや伝達ミスを防止する
- 再現性のある営業活動が可能になる
- 情報を共有しやすくなる
- 効果的なターゲティングができるようになる
- 顧客ロイヤリティが向上する
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顧客情報の一元管理に役立つ
これまで担当者ごとに異なる情報を持っていたのを、顧客データを一元管理するのに切り替えるうえでCRMは有用です。情報が一か所にまとまっていれば、顧客のデータが必要な際に、スタッフがすぐに情報を収集・利用できる体制をつくり出せます。
たとえば営業担当がオフィスにいなくても、過去の商談に関する情報があれば、オフィスにいるスタッフで問い合わせに対応できるようになるでしょう。このように、担当者本人がいなくとも迅速に対応できます。部署間での連携も強化されるでしょう。
また、顧客情報を管理し分析することで、顧客の信用リスクをより正確に把握できます。デフォルトリスクのある顧客を、リスクが顕在化する前に特定することも可能です。顧客情報の一元管理については、次の記事も参考にしてください。
関連記事:顧客情報とは?一元管理方法・活用術とCRM(顧客管理システム)を紹介!
顧客満足度の向上につながる
CRMを導入することで、顧客満足度の向上にもつながります。CRMによって顧客情報をすぐに把握でき、クレーム対応や顧客サポートをより適切に進められるようになるからです。
たとえば、顧客情報の管理システムをコールセンターのシステムと連携できます。顧客からの電話と同時に、本人に関する属性情報や商談の履歴を表示させることも可能です。新人のスタッフが対応しても、適切な応対を簡単に実現できます。
コールセンターの業務だけでなく、営業活動においてもCRMによる情報管理が役に立ちます。商品の詳細や提案タイミングを事前につかんでおくことで、連絡ややりとりの抜け漏れを防げます。より効率的に営業活動を進めることが可能です。
顧客満足度については、次の記事も参考にしてください。
関連記事:顧客満足度(CS)とは?向上のポイント・ツール7選と具体事例
情報の伝え漏れや伝達ミスを防止する
CRMからデータを入力するよう切り替えることで、情報の伝え漏れや伝達ミス自体も防げます。内線電話や口頭でやり取りをすると、どうしても伝達ミスが起こってしまうものです。
たとえばCRMを使って、顧客へのメールを一斉配信できます。郵送物を封筒に詰めたり宛名を書いたりする作業を削減し、より業務を効率化できます。たくさんの郵便物に宛名を書けば、ミスが出るのは避けられないでしょう。
また、それぞれの部門が必要な情報を、自分たちですばやく確認し、共有できるようになります。顧客情報がツールで一元管理され他人に頼らずデータが得られるので、社内での伝達ミスも防ぐことが可能です。
再現性のある営業活動が可能になる
CRMを導入すれば、再現性のある営業活動を実現できます。再現性があるとは、同じ条件の下で、同じ手順をふんで営業活動をすれば、誰がやっても同じ成果を出せる状態です。個人のスキルや経験則に頼らず、データに基づいて活動することで、再現性のある営業につながります。
CRMによるデータを使って、顧客の属性(年齢や職業、年収など)や、行動のパターンをAIで自動的に分析できます。こうした分析を通じて、商談がうまくいく確率の高い顧客を効率的に選べるのです。
また、データに基づき営業手法を検討すれば、担当者の間で見られる成果のばらつきを小さくできます。営業活動を標準化させることも実現可能です。
情報を共有しやすくなる
銀行や金融機関にCRMを導入することで、金融機関の全従業員が、スムーズに顧客情報を共有することが可能です。
顧客に関する新たな情報は、営業や窓口の担当者、コールセンターのスタッフなど全員に向けて、即座に更新されて確認できます。応対におけるサービス品質も向上できるのです。
また、コールセンターにおける問い合わせ履歴をもとに、営業担当から顧客の欲する情報も提供できるでしょう。個別の顧客が持つニーズに合わせて、きめ細やかな対応ができるようになります。
効果的なターゲティングができるようになる
CRMを活用して顧客情報を分析すれば、顧客の属性や行動パターンにもとづいて、より効果的なターゲティングが可能です。
新商品をリリースする時に、顧客の年齢層や職業、年齢などの属性情報を活用し、異なるターゲットに適したPR戦略を立案できます。
ターゲット層に応じて効果があると考えられる広告チャネル(たとえば、電話やLINE、Web広告など)を選び、より効果的にリーチを図ることもできるのです。
顧客ロイヤリティが向上する
CRMを導入することで、一人ひとりの顧客に合わせた情報提供や対応ができるようになり、顧客ロイヤリティが向上します。過去にどのような応対をしたかを履歴に残すことで、顧客の状況にもとづいた最適な提案を行うことができます。顧客との信頼関係も強められるでしょう。
顧客のニーズや課題を的確につかんだ上でサポートを提供すれば、顧客満足度を高め、金融機関への信頼につながるでしょう。顧客と良好な関係を築くことは、金融機関の利益にとっても重要です。CRMの導入は、そのための有効な手段のひとつとなります。
銀行・金融業界でCRMを導入するポイント
銀行や金融業界に安定した利益をもたらしてくれるCRMですが、導入する際には気をつけるべきポイントがあります。
ここでは、以下にあげる4つの点を紹介します。CRMの導入に関心があれば、事前に検討しておきましょう。
- 導入する目的を明らかにする
- 担当者が使いやすいシステムを選ぶ
- サポートが充実しているか確認する
- セキュリティの高さに注目する
- 既存システムと連携させる
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導入する目的を明らかにする
CRMを導入する際には、その目的を明確にしておきましょう。何のためにCRMを利用するのかがはっきりすれば、必要な機能を絞り込み、自社に合ったCRMを選べるようになります。
ただし業務フローが変わると、当初の目的設定が適切ではなくなり、逆に生産性が下がるリスクもあります。導入する前には、十分に注意が必要です。
CRM導入を検討するチームと現場担当者がしっかり話し合い、解決したい課題と導入の目的を共有・一致させておくことが重要です。
担当者が使いやすいシステムを選ぶ
CRMを新たに導入する際は、現場にいるスタッフが使いこなせる操作性かどうかも確認しましょう。CRMシステムが操作しやすいかを検討する際には、現場スタッフのITリテラシーも考慮する必要があります。
費用をかけてCRMを導入しても、営業やコールセンターの担当者が使いづらいと感じれば、宝の持ち腐れになってしまいます。CRMを検討する際は、機能が多いだけでなく、画面構成の見やすさや使いやすさにも注目してください。
無料体験版やトライアルを活用して、実際の使用感を確認してもらうのがおすすめです。導入してから「使いづらい!」と現場スタッフに言われるのを防げるでしょう。実物のサービスを触ってみることで、カタログやWebサイトでは分からない、実際の使い勝手を判断できます。
サポートが充実しているか確認する
CRMを導入するか検討が始まったら、導入時にベンダーから充実したサポートを受けられるか確認しましょう。
初めてCRMを利用する際には、ベンダーから導入サポートを受けて、現場の負担をなるべく軽くしましょう。
CRMの導入には初期設定が必要で、多くの時間がかかります。どのような内容のサポートを受けられるかしっかりと確かめておきましょう。専門的な技術を持つスタッフがいない企業であれば、導入支援を頼むのはとても重要です。
CRMを導入した後も、トラブルが発生した時には迅速な対応が必要です。いざという時のサポート体制が整っているベンダーの製品を選びましょう。サポートを活用することで、トラブルが生じても業務への悪影響を抑えられます。
セキュリティの高さに注目する
CRMのセキュリティが高い水準となっているか、事前にしっかり見ておきましょう。
銀行をはじめとする金融の分野では、他の業界と比べてさらに高いセキュリティが求められます。そのため、CRMシステムのセキュリティは非常に重要です。特に、クラウド型のCRMを利用するならば、情報漏えいに関するリスクへの対策が欠かせません。
高いセキュリティを持っているかを調べるためには、たとえば以下にあげる機能を持っているか確認するとよいでしょう。
- アカウントごとのアクセス権限設定
- IPアドレス制限
- 二段階認証
- データ通信の暗号化などのセキュリティ機能
CRMシステムの中には、第三者機関による国際認証を取得したものもあります。そうした製品を選定すれば、セキュリティ面でさらに安心と言えるでしょう。
既存システムと連携させる
CRMの効果を最大化するためには、すでに導入しているシステムと連携させるのが重要です。既存の業務システムとうまく連携できるかを、導入前に確認しましょう。
たとえば、自社でWebサイトのチャットボットやLINEなどのSNSを既に導入しているとしましょう。これらのサービスと連携できれば、情報収集や広告配信をよりスムーズに進められます。
またコールセンターにおいて、電話とコンピュータをつなげるソフトウェアであるCTIシステムが利用されているとしましょう。CTIとCRMとの連携が可能なら、電話を通じた顧客サービスの利便性をより高められます。
CRMを導入する目的に応じて、連携させたい既存システムを事前にリストアップしましょう。そして、どのCRMと連携できるかを調べるのをおすすめします。
CRMのデータ連携については、次の記事も参考にしてください。
関連記事:CRMのデータ連携とは?メリットと営業・マーケ連携を円滑にする方法
銀行・金融業界でCRMを導入する注意点
銀行や金融業界でCRMを導入するメリットは大きいです。
一方で、導入に際しては注意点もあります。CRMを導入するか検討する際は、特に次の4点に注意しましょう。
- 初期費用や運用費用がかかる
- 教育のリソースが発生する
- サイバー攻撃のリスクを想定しなければならない
- 効果を実感できるまで時間がかかる
初期費用や運用費用がかかる
CRMを利用すると、初期費用や運用コストがかかります。
初めてCRMを利用する際は、システム構築や導入サポートなどに初期費用が発生します。サーバーを社内において運用するシステムを導入すると、特に多額の初期費用がかかる場合があります。
最近はクラウド型のCRMが導入される場合も増えてきました。クラウド型CRMでは、サーバーとインターネットを通じてデータをやりとりします。初期費用を抑えられるというメリットがあり、銀行でもクラウド型CRMを導入する事例があります。
しかし、クラウド型CRMの多くのサービスでは、月ごとに運用コストが発生します。初期費用は少なくて済む一方で、運用コストが支払い続けられるか、事前に検討しておくことが必要です。
教育のリソースが発生する
CRMを導入するのに伴い、従業員へ教育するために、時間や労力などリソースを割く必要が生じます。たとえば、次のような追加的な業務によって時間とコストがかかってしまいます。
- 従業員に向けてのマニュアル作成
- 社内向けの説明会や研修会の準備
新たなCRMシステムに慣れるまでは、質問やトラブルに対応することも増えます。業務効率が一時的に下がるおそれが大きくなるでしょう。こうした社内への対応をフォローできる体制づくりも重要です。
導入の初期段階には念入りな準備と十分なフォローを心がけ、現場にCRMの定着を図らなければなりません。定着に失敗するとシステムが活用されず、費用だけが生じ続けるリスクがあります。
サイバー攻撃のリスクを想定しなければならない
金融機関におけるCRMシステムでは、サイバー攻撃のリスクを念頭においておく必要があります。顧客資産情報の流出や漏洩を防ぐために、厳重なセキュリティ対策が欠かせません。
銀行をはじめとする金融機関において、これまでDX化があまり進んできませんでした。その背景には、不正アクセスなどへの懸念があると言われています。CRMを導入するには、セキュリティを高めるために、VPNやIP制限などの施策を追加する取り組みが求められます。
オンラインでアクセス可能なCRMは高い利便性があります。しかしその一方で、社員がフリーWi-Fiからシステムを利用するなど、情報が漏洩してしまうリスクも伴います。社員に向けたセキュリティ教育を徹底することが必要です。
効果を実感するまで時間がかかる
CRMを導入した後、効果が実感できるまでには時間がかかります。時間がかかるのは、顧客などの情報を集約・蓄積し、蓄積したデータを分析して業務改善につなげるという過程が必要なためです。
導入した直後からすぐに効果が目に見えるとは期待しないようにしましょう。長期的な視点で計画を立て、集めたデータを分析しながらPDCAサイクルを回しつつ、改善を続けることが重要です。
効果が出るまで継続的に情報を集め蓄積するよう努力を重ね、CRMを活用した業務改善を地道に進める姿勢が求められます。導入してすぐに効果が出ないからとCRMを使わなくなってしまうのは、もっとも避けるべきシナリオです。
▶︎▶︎営業管理職が語る、CRM活用課題について詳しく知りたい方は、併せてこちらの記事をご覧ください。
金融業界でのCRM導入事例
アコム株式会社ではこれまでメールや出社時の対面を中心に営業情報を共有していましたが、以下のような課題を抱えていました。
- 出張が多く、営業メンバー同士のすれ違いによって情報共有が遅れがち
- 経験や知識の共有が十分に行われず、ナレッジの活用が限定的
- 企画提案から成果に至るまでのリードタイムが長いにもかかわらず、営業状況の把握が不十分で対応が遅れることがあった
そのため、新しいSFA/CRMツールの選定では「外出先でも入力がしやすく、現場が使いやすいこと」や「スピーディな情報共有ができること」を重視して導入しました。
ツールの導入後は、営業活動の記録が個人・顧客単位で時系列に整理され、状況や提案内容の共有も容易になったことから、部内のコミュニケーションが活性化。情報共有のタイムラグも短縮され、営業活動の質が向上しました。
また、Mazrica Salesの使い方をチームごとに工夫し、伝言ボードを通じてそのノウハウを共有する文化も生まれ、業務に合った活用が横展開されています。
Mazrica Salesで情報共有のタイムラグを解消|営業コミュニケーションの円滑化で進む「より添った」提案・フォロー
まとめ
銀行など金融業界は、2025年の崖に向けた対応や顧客に対するコミュニケーションなど、多くの課題に直面しています。こうした課題を解決する上で、CRMの導入は有効な方法のひとつです。
CRMを導入すれば、顧客情報の一元管理や顧客満足度の向上、効果的なターゲティングなど、さまざまなメリットが得られます。一方で導入時には、目的の明確化や使いやすさ、サポート体制、セキュリティ面など、重要なポイントに気をつける必要があります。
CRMを最大限に活用するには、すぐに効果が現れると期待しないようにしましょう。長い目で見て計画を立て、業務改善を地道に進めるのが重要です。