SaaSビジネスにおいて、安定的かつ継続的な成長を目指すなら「MRR(月次経常収益)」の理解は欠かせません。
MRRは、サブスクリプション型サービスにおける収益の安定性や拡張性を測る重要なKPIであり、経営判断や投資評価の指標としても広く活用されています。
本記事では、MRRの意味や計算方法をはじめ、ビジネスにおける役割や活用ポイント、さらには改善施策までをわかりやすく解説します。
この記事の内容
MRRとは
MRRとは「Monthly Recurring Revenue(マンスリー・リカーリング・レベニュー)」の略で、日本語では「月次経常収益」と訳されます。
これは、サブスクリプション型のSaaSビジネスなどにおいて、毎月繰り返し発生する安定的な収益を表す指標です。
MRRには一時的な売上(初期費用や追加購入など)は含まれず、定常的な売上のみが対象となります。
例えば、1ユーザーあたり月額5,000円のサービスを100社が利用している場合、MRRは以下のように算出されます。
- MRR = 月額料金 × ユーザー数
- MRR = 5,000円 × 100社 = 500,000円
このように、MRRは現在の収益状況を数値で明確に把握できるだけでなく、ビジネスの将来性を評価する上でも有効な指標です。
ARR・NRRとの違い
MRRと混同しやすい指標として、ARR(Annual Recurring Revenue)とNRR(Net Revenue Retention)があります。
ARRは年間経常収益を示すもので、MRRを12倍(12ヶ月分で計算)することで算出されます。
つまり、長期的な収益の安定性を測るために活用されます。
一方でNRRは「売上継続率」とも呼ばれ、既存顧客からの収益がどの程度維持されているかを表す指標です。
NRRが100%を超えていれば、解約やダウングレード以上にアップセルやクロスセルが進んでいることを示し、収益が成長していると判断されます。
このように、MRR・ARR・NRRはそれぞれ異なる目的と視点を持っており、併用することでより立体的に事業の成長性を分析することが可能です。
関連記事:ARRとは?MRRとの関係性や計算方法、伸ばし方を解説
MRRを管理するメリット
MRRを継続的に管理することで、以下のようなメリットが得られます。
- 成長スピードの可視化:MRRの推移を確認することで、売上の成長や停滞を定量的に把握できます。
- 予算の正確な策定:MRRの数値をもとに、今後の投資判断や予算配分がしやすくなります。
- 営業・マーケティング施策の評価:MRRの増減を通じて、獲得施策やカスタマーサクセス施策の効果検証が可能です。
とくにSaaSビジネスでは、MRRをKPIとして設計・運用することが、収益性の高い成長を実現するための鍵となります。
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MRRの役割
MRRは単なる収益の定点観測指標ではなく、SaaSビジネスにおける成長性や健全性を可視化する重要な役割を担っています。
特に収益の構成要素を分解し、サービスの改善や戦略設計に活かすことで、より持続的なビジネスの拡大が可能になります。
ここでは、MRRが果たす2つの主要な役割について解説します。
関連記事:SaaS営業とは?必要なスキルとSaaSビジネスモデルの特徴まで紹介
SaaS Quick Ratioの分析に用いる
SaaSビジネスにおいて、MRRは「SaaS Quick Ratio(クイックレシオ)」という指標を算出する際に活用されます。
これは、サービスの成長率を評価するために用いられる指標で、以下の計算式で求められます。
SaaS Quick Ratio(%)=(New MRR + Expansion MRR)÷(Downgrade MRR + Churn MRR)
この値が1を下回る場合は、成長よりも収益の損失が上回っている状態を意味し、収益基盤が不安定である可能性があります。
一方、4を超えると、非常に健全かつ高成長な状態と判断されます。
このように、MRRを構成する各要素をもとにSaaS Quick Ratioを算出することで、事業の成長速度と質を把握することができます。
※New MRR、Expansion MRR、Downgrade MRR、 Churn MRRについては、以下で詳しく解説しています。
投資家の評価指標になる
MRRは、外部資金調達を視野に入れる企業にとって、投資家からの信頼を獲得する上で非常に重要な指標です。
とくにスタートアップやSaaS企業の場合、将来の成長性や継続性を示す判断材料として、MRRは重要な役割を持ちます。
事業の初期段階では、New MRR(新規MRR)の伸び率に注目が集まりますが、サービスが成熟してくると、Churn MRR(解約MRR)やDowngrade MRR(ダウングレードMRR)といった維持・縮小に関わる要素も重視されます。
これは、顧客との長期的な関係性や、ロイヤリティの高さを示す重要な裏付けとなるためです。
また、Expansion MRR(アップセル・クロスセルによる拡張収益)の増加は、既存顧客の満足度やLTVの向上を示し、事業の収益性の高さをアピールするポイントになります。
MRRの5つの種類と計算方法
MRRをより正確に管理・分析するためには、構成要素ごとの内訳を明確にすることが重要です。
ここでは、MRRを構成する5つの種類の定義と計算方法をわかりやすく解説します。
New MRR
New MRRは、新規に契約を開始した顧客によって生じる月次の収益です。
特にサービス立ち上げ期において、成長の勢いを判断するうえでの重要な指標となります。
計算式:New MRR = 当月の新規顧客数 × 月額利用料
例えば、10人の新規顧客が月額5,000円のプランに加入した場合、New MRRは50,000円となります。
Expansion MRR
Expansion MRRは、拡張MRRとも呼ばれ、既存顧客が上位プランにアップグレードしたり、追加機能を契約したことにより増加した収益を指します。
アップセルやクロスセルの成果を表す重要な指標です。
計算式:Expansion MRR = アップグレードした顧客数 × 平均追加収益
例えば、3人の顧客がそれぞれ5,000円ずつ課金額を増やした場合、Expansion MRRは「3×5,000円」で15,000円になります。
Downgrade MRR
Downgrade MRRは、既存顧客が利用プランを引き下げたことで減少した収益の合計です。
減少MRRとも呼ばれています。
Downgrade MRRが少ないほど顧客の満足度が高く、Downgrade MRRが増加した場合はサービスへの不満や費用対効果の低下が背景にある場合が多く、早期の対応が求められます。
計算式:Downgrade MRR = ダウングレードした顧客数 × 平均減少収益
例えば、2人の顧客が1万円から5,000円にプランを変更した場合、Downgrade MRRは「2×5,000円」で10,000円となります。
Churn MRR
Churn MRRは、解約MRRとも呼ばれ、サービスの解約によって失われたMRRを指します。
SaaSをはじめサブスクリプション型のビジネスにとって、Churn MRRが大きい場合は、ビジネスの継続性に関わるため、対策が必要です。
仮に新規顧客を獲得できていても、Churn MRRが大きければ収益拡大につながりません。
計算式:Churn MRR = 解約した顧客数 × 損失した平均収益
例えば、3人の顧客が月額5,000円の契約を解約した場合、Churn MRRは「3×5,000円」で15,000円となります。
Net New MRR
Net New MRRは、1カ月間で増加したMRRから減少したMRRを差し引いて算出される、純新規MRRです。
成長率の実態を把握するために有効な指標です。
計算式:Net New MRR = New MRR + Expansion MRR − Churn MRR
例えば、New MRRが30,000円、Expansion MRRが20,000円、Churn MRRが5,000円であれば、Net New MRRは45,000円となります。
Net New MRRがプラスの場合、事業は成長軌道に乗っていると判断できます。一方で、マイナスの場合は、事業の収益が縮小傾向にあり、早急な対策が必要です。
MRRの改善方法
ここでは、各MRRのタイプ別に改善アプローチを解説します。
それぞれの指標に応じた施策を講じることで、収益の安定化と成長加速を同時に図ることが可能です。
New MRRの改善方法
New MRRを向上させるには、新規顧客の獲得施策を強化する必要があります。
以下のような施策が効果的です。
- ターゲットの見直し:ペルソナやカスタマージャーニーを再設計し、的確なマーケティング、営業アプローチを実施する
- コンテンツマーケティングの最適化:検索意図に合致した記事や資料を通じてリードを増やす
- CRMやSFAの導入:営業活動の効率化とリードナーチャリングの強化
- セミナーやウェビナーの開催:顧客の課題に直結したテーマをもとに信頼を構築
顧客の課題に寄り添った情報発信や提案によって、獲得単価を抑えつつ継続的な新規顧客獲得を実現できます。
Expansion MRRの改善方法
Expansion MRRを増やすには、既存顧客との関係性を深め、顧客ロイヤリティを向上させることで、顧客単価アップへと導きます。
- 顧客ロイヤリティの向上:課題解決型のサポートを定期的に行い、信頼感を強化する
- アップセル/クロスセルのタイミング最適化:利用状況に応じた提案をデータに基づき、適切なタイミングで実施
- アフターフォローの強化:定期的なヒアリングや活用促進により機会損失を防止
顧客の成功体験を支援することで、結果として収益の拡大につながります。
Downgrade MRRの改善方法
Downgrade MRRの抑制には、顧客がプランを引き下げた理由を正確に把握し、課題を解決する必要があります。
- ユーザーインタビューの実施:プラン変更の背景や利用上の課題をヒアリングする
- 行動データの分析:利用頻度や機能使用状況から改善点を特定
- オンボーディング支援の強化:初期導入時にサポート体制を充実させ、早期の価値提供を実現
- 教育コンテンツの提供:機能の活用方法や成功事例をナレッジ化して配布する
顧客の不安や不満に先回りして対応することで、プランの継続利用を促進できます。
Churn MRRの改善方法
Churn MRRの改善は、ビジネスの安定成長に欠かせない要素です。
解約の予兆を見逃さず、予防策を講じることがポイントです。
- 定期的な満足度調査:NPSや顧客満足度調査などを通じて早期にリスクを発見する
- 競合比較への対応:機能改善や料金設計を見直し、競争力を維持する
- カスタマーサポートの拡充:チャットサポートやFAQ、動画マニュアルなどを強化する
- 解約ユーザーのフィードバック活用:解約理由を把握し、プロダクトやサービスに反映する
一人ひとりの顧客と向き合いつつ、データを用いて改善策を施すことで、解約率の低下につながります。
MRRを活用する際のポイント
MRRは収益の安定性や成長性を可視化する重要な指標ですが、正確に計算し、活用するためにはいくつかの注意点があります。
ここでは、MRRを運用する際に押さえておくべきポイントを3つ紹介します。
無料期間・割引分も考慮する
無料トライアル期間や一時的なキャンペーンなどの割引がある場合、実際の請求金額ベースでMRRを計算する必要があります。
MRRは「毎月確実に発生する収益」を示す指標であり、無料トライアル中のユーザーはMRRには含めるべきではありません。
例えば、初月無料キャンペーン中のユーザーや、50%オフで提供しているユーザーは、その割引価格を反映して計上することが正確なMRR算出につながります。
ほかの収益と切り分ける
MRRは、定常的に発生する収益のみを対象とし、一時的な売上(初期費用、導入サポート費、追加オプション購入費など)は含めません。
これらを混在させてしまうと、収益の安定性を見誤る原因になります。
したがって、収益の種類ごとに管理を分け、MRRとそれ以外の売上を明確に区分して運用することが、収益構造の健全な分析と予測につながります。
遅延分の支払も計上する
たとえ顧客の支払いが遅延していたとしても、契約が継続していて、請求が発生している場合には、MRRに含めて計算するのが一般的です。
MRRはあくまで「請求ベース」の定常収益を示すため、未回収であっても、対象月に請求が立っていれば計上します。
まとめ
MRRは、サブスクリプション型ビジネスにおいて、収益の安定性と成長性を可視化するうえで非常に重要な指標です。
本記事で紹介した計算方法やポイントを理解し、適切に管理・改善することで、事業の継続的な成長を支えることが可能です。
マーケティング活動を行う上では、MRRのような定量指標に加えて、マーケティングの最新動向を捉えることも非常に重要です。
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