「PDCAサイクル」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。
多くの企業でその重要性が認識されている一方で、実際に成果につなげている例は意外と少ないものです。
本記事では、PDCAサイクルの基本から具体的な活用方法までを解説します。
読んでいただければ、PDCAを業務改善に活かすヒントがきっと見つかるはずです。
この記事の内容
PDCAサイクルとは?簡単に解説
PDCAサイクルは、業務やプロジェクトを効率的に改善し続けるためのフレームワークです。
その名称は以下の4つのプロセスの頭文字を取っています
- P:Plan(計画)
目標を明確にし、それを達成するための具体的な計画を立てます。 - D:Do(実行)
計画に基づいて行動します。この段階ではスピードや正確性が求められます。 - C: Check(評価)
実行した結果を評価し、目標との差異や問題点を洗い出します。 - A:Action(改善)
評価結果をもとに、次の計画に修正を加え、改善につなげます。
このプロセスを繰り返すことで、業務の質を段階的に高めることができます。
ポイントは、「単にPDCAを回す」のではなく、「チェックと改善を通じて次のステップをより強化する」ことです。
例えば、日報や振り返りを取り入れることで、このサイクルを日々の業務に自然に組み込むことが可能です。
関連記事:業務改善とは?改善の進め方と具体例やおすすめツール11選
PDCAサイクルの成り立ち
PDCAサイクルの概念は、1950年代に品質管理の父とも呼ばれる統計学者、ウィリアム・エドワーズ・デミング博士によって提唱されました。
当時、製造業における品質管理の方法として注目され、日本の多くの企業がこの手法を取り入れました。
その結果、日本企業の製品は世界的に高い評価を受けるようになりました。
今日では、製造業だけでなく、営業やマーケティング、さらには教育や行政分野に至るまで、幅広い場面で活用されています。
特に現代のように変化が激しいビジネス環境では、継続的な改善を可能にするPDCAサイクルは欠かせないフレームワークとなっています。
PDCAサイクルの具体的な実施内容
PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのプロセスから成り立ちます。
ここでは、それぞれのプロセスで何を行うべきかを具体的に見ていきましょう。
Plan(計画)
Plan(計画)の段階では、目標を明確に設定し、その達成に必要な行動を仮説として立てます。
計画作成のポイントは以下の2点です
- 5W1Hの明確化
誰が、何を、なぜ、どれほど、いつまでに、どのように行うかを具体化します。 - 現実的な目標設定
過去のデータや将来予測を基に、実現可能な計画を策定します。
例:販売目標を達成するために、週ごとに何件の顧客訪問が必要かを具体的に設定する
Do(実行)
Do(実行)の段階では、立てた計画をもとに実行に移します。
ここで重要なのは、「実行結果を記録する」ことです。成功だけでなく、課題や予想外の出来事も正確に記録しましょう。
さらに、以下を意識します
- 結果を数値化
選んだ指標に基づき、客観的なデータを収集します。 - 計画との差異を把握
計画通りに進んでいるかを確認できる記録を残します。
例:訪問件数や商談の成約率を記録し、計画とのズレを把握する。
Check(評価)
Check(評価)の段階では、実行した結果を計画と比較し、目標達成度や課題を評価します。
以下の2つの視点で評価を行います
- 計画より良い結果の場合:成功要因は何か?
- 計画より悪い結果の場合:何が原因でうまくいかなかったのか?
数値を活用して評価することで、主観を排除し、客観的な判断を下せます。一見、数値化が難しい項目も、アンケート結果や行動記録などを工夫して活用できます。
例:成約率が計画より高かった場合、新しい営業手法が成功した可能性を評価する。
Action(改善)
Action(改善)の段階では、評価結果を基に、改善策を実施します。
この段階で以下を意識します
- 成功事例を次の計画に活用
何がうまくいったのかを次の計画に反映します。 - 改善案の優先順位付け
限られたリソースを最大限活用できるよう、重要度の高い改善案を優先します。 - 次のPDCAサイクルを見据える
Actionは次のPlanへの橋渡しです。改善内容を繰り返し適用することで、プロセス全体を進化させます。
例:新たな営業手法が有効であれば、それを標準化し、次回の計画に取り入れる。
PDCAサイクルは1周したら完了ではありません。Action(改善)は2周目のPlan(計画)のことも考えて改善策を導きます。
そして、2周3周と継続し、ブラッシュアップさせていきます。
このように継続的に改善を繰り返す事で成長を続けることができます。
PDCAサイクルのメリット
PDCAサイクルを活用する代表的なメリットは以下の3つがあります。
- 目標が明確になる
- 業務効率が向上
- 継続的な改善
それぞれについて詳しく解説します。
目標が明確になる
PDCAサイクルでは、常に目標を意識した行動が求められます。
「目標を設定して計画する(Plan)」から始まり、実行・評価・改善を繰り返す中で、自分たちがどこを目指しているのかが明確になります。
この結果、日常の業務が単なるルーチンワークに終わらず、目標達成に向けた意味のある活動として捉えられるようになります。
業務効率が向上
PDCAサイクルを導入すると、業務の進め方が効率化されます。
Check(評価)の段階で、どのプロセスが効果的だったのかを分析するため、非効率的な作業や不要なプロセスが削減されます。
また、改善案を優先順位に基づいて実施するため、重要度の高い業務に集中できます。
継続的な改善
PDCAサイクルでは一度サイクルを回しただけで終わるのではなく、2周目、3周目と繰り返すことで、業務やプロジェクトの質が段階的に向上していきます。
サイクルを回すたびに得られるデータや知見を蓄積し、それを次のサイクルに活用できます。
また、問題が発生した場合でも、すでに構築されたサイクルを基に迅速に対応可能です。
関連記事:営業活動の中でPDCAサイクルが上手く回らない理由と改善方法
PDCAサイクルのデメリット
PDCAサイクルは、業務改善の基本フレームワークとして広く知られていますが、完璧な手法ではありません。
確かに、PDCAサイクルにはデメリットが存在しますが、それらを理解し適切に対処することで、効果的に活用することができます。
以下では、主なデメリットを解説します。
形骸化しやすい
単にPDCAサイクルを回すことに陥ってしまうケースです。
目的を忘れてしまい、目標を達成することではなく、PDCAサイクルを単なる形式だけで実行してしまうことです。
こうなると目標達成や業務改善には繋がらない可能性があります。
そのため、PDCAサイクルを効果的に活用するためには、常に目標や課題が何か、それらを達成するために何をすべきかを明確にしておくことが重要です。
改善までに時間がかかる
PDCAサイクルの大きなデメリットとして、行動までに時間がかかる点があげられます。
計画・評価・改善があり、行動までにステップを踏まなければなりません。
PDCAが開発された1950年代ごろと比べて、現代は市場の変化のスピードが早く、先行きの予測も難しくなっており、それに対応するためのスピード感に欠けるという見方です。
ビジネス環境やトレンドが急速に変化する中では、PDCAサイクルの適用が難しいと見なされています。
一方で、PDCAの適用範囲は業界や状況によって異なり、安全管理や品質管理など正確性や安全性が重視される場面では有効な手法として活用されます。
新しいアイデアが生まれにくい
PDCAサイクルは、計画された行動を振り返って、改善策を導き出す手法です。
しかし、このプロセスは過去のやり方や成功事例に依存しやすく、新たなアプローチや革新的なアイデアの創出にはあまり適していません。
特に現在は、世界がグローバル化の潮流に乗っており、新たな課題や変化が頻繁に生じている状況下では、従来のやり方が通用しなくなることが多々あります。
こうした場面で求められるのは、これまでとは異なる視点やアプローチで問題に取り組むことです。
そのため、組織は、これらの課題に対処するために、PDCAサイクルと異なる手法やフレームワーク、戦略を組み合わせる必要があります。
関連記事:
PDCAサイクルの失敗要因
ビジネスや日常の場面で活用されることが多いPDCAサイクルですが、使い方を誤ると適切な効果が出ない場合があります。
ここからは、PDCAサイクルの各プロセスで陥りがちな失敗要因を紹介します。
Plan(計画)の失敗要因
計画段階での失敗要因は、目標設定が不明確または非現実的であることが挙げられます。
目標が曖昧であったり、達成不可能だと、その後の「Do(実行)」「Check(評価)」でも十分に効果を出せません。
また、計画を立てる際に必要な情報収集や分析が不十分な場合も失敗要因になります。
誤った仮定や前提に基づいて計画が策定されることになるため、成功可能性が低くなるのです。
Do(実行)の失敗要因
実行段階では、計画通りに行動しないことや、必要なリソースやスキルが不足していることが主な失敗要因です。
計画と実行の間にギャップが生じると、期待した成果を得るのは難しいでしょう。
さらに、コミュニケーション不足やチーム内の協力体制が整っていない場合、実行が非効率になります。
実行中に発生する問題や障害に迅速に対処するためにも、チーム内での連携を深めることが重要です。
Check(測定・評価)の失敗要因
測定・評価段階での失敗は、適切な評価基準や指標の設定が欠けていることが要因となります。
評価基準が明確でないと、成果を正確に把握できず、改善のための具体的な情報を得られません。
また、評価を行うタイミングが遅れると、問題が大きくなってから気づくことになり、修正が難しくなります。
さらに、データ収集の精度や信頼性が低い場合も、正確な評価が行えなくなります。
Action(改善)の失敗要因
改善段階では、測定・評価の結果に基づいた適切なアクションが取られないことが失敗の要因です。
評価結果を無視したり、再び同じミスを繰り返すような改善策を立てると、PDCAサイクルの効果は発揮されません。
加えて、改善策の実施が遅れたり、対策が不十分である場合、問題の根本的な解決には至りません。
関係者の意識改革やスキルアップが欠如していると、同じ失敗を繰り返すリスクが高まってしまいます。
PDCAサイクルを成功させる3つのコツ
PDCAサイクルを効果的に回すには、具体的な方法を理解し、実践することが大切です。
ここでは、PDCAサイクルを成功に導くための3つのコツを詳しく解説します。
1.目標を明確に設定する
PDCAサイクルがうまく回らない最大の原因は、目標設定が不明確であることです。
例えば、「売上を上げたい」といった漠然とした目標や、「2週間で売上を倍にする」という非現実的な目標では、進捗を把握しにくく、CheckやActionにつながりません。
【成功のコツ】
- SMART目標を設定する
具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性のある(Relevant)、期限付き(Time-bound)という条件に基づいて目標を設定しましょう。 - 仮説を立てる
目標達成のために必要な行動を具体化し、検証可能な仮説を設けることが重要です。
2.目標に対する進捗を定期的に確認する
日々の業務に忙殺されると、目標に対する進捗確認が後回しになり、PDCAサイクルが形骸化してしまいます。
一度にまとめて確認しようとすると時間がかかり、改善のスピードも遅くなります。
【成功のコツ】
- 進捗確認のルール化
毎日、毎週などの頻度を決め、短いスパンで進捗を確認します。 - 定期的なフィードバックの場を設ける
チーム全体で進捗状況を共有し、改善策を検討する時間を確保しましょう。
3.数字として記録に残す
計画に対して実行がうまくいかなかった場合、記録を残さないと次の改善策を立てることができません。
多くの失敗は「改善のためのデータが不足していること」に起因します。
営業で管理すべきデータについては以下の記事でご紹介しますので、気になる方はご一読してください。
【成功のコツ】
- 定量的な記録を徹底する
どの行動が成功し、どの行動が失敗したかを具体的な数値やデータで記録します。 - チームでデータを共有する
チーム全体でデータを見える化することで、改善点を全員で共有できます。
また、データの記録や見える化にはSFA(営業支援ツール)の活用が効果的です。
SFAツールを活用してPDCAサイクルを効果的に回すには、各プロセスで具体的に次のようなものがあります。
- 計画 (Plan):SFAに蓄積されたデータを分析し、具体的な目標と戦略を設定
- 実行 (Do):SFAで顧客対応を管理し、フォローアップや契約進行を自動化して効率化
- 評価 (Check):SFAの分析機能を使って進捗をモニタリングし、目標達成状況を評価
- 改善 (Act):データを基に戦略やプロセスを改善し、成功したアプローチをチーム全体で共有
このように、SFAを使って営業活動を効果的に管理し、成果を最大化できます。
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PDCAサイクル導入企業の成功事例
PDCAサイクルを活用し実際に業務改善に成功した代表的な企業の事例を紹介します。
事例1:トヨタ自動車 – 製造プロセスの改善
トヨタ自動車は、1950年代から「トヨタ生産方式(TPS)」を採用して製造効率を向上させてきました。
この手法の基盤にあるのがPDCAサイクルです。
Plan(計画)
製造ラインにおける無駄(ムリ・ムダ・ムラ)を削減するため、徹底的にデータを収集し、生産ボトルネックを特定。
特に「5W1H」と「なぜ」を5回繰り返す方法(5 Why分析)を活用して、根本原因を明確にしました。
Do(実行)
計画に基づいて、生産ラインの変更やジャストインタイム制の生産方式を導入。
必要な部品を必要なときに供給する仕組みを整備しました。
Check(評価)
生産効率や不良率を定期的にデータ化して評価。
特定したボトルネックがどれだけ解消されたか、数値で効果を測定。
Action(改善)
改善が十分でない箇所について再度分析を行い、新たなアクションプランを計画。
これを繰り返し行うことで、継続的にプロセスを最適化。
さらに、トヨタではPDCAに加え「+F」(Follow、Feedback)を行っています。
このFでは、PDCAサイクルが独りよがりで向こう見ずなものになってしまわないように、複数人で考え客観的視点を取り入れることを重要視しています。
このようにして、トヨタは独自のPDCAサイクルを効率的に運用し、業務改善を成功させ、現在に至るまで自動車業界のトップを走り続けているのです。
事例2:ユニクロ – 商品展開とマーケティング戦略
ユニクロは、シーズンごとの商品展開や広告戦略においてPDCAサイクルを活用。
特に、新商品投入時の市場調査から販売までのプロセスに組み込んでいます。
Plan(計画)
過去の販売データをもとに、新商品の需要予測とターゲット層を特定。
商品のラインナップや価格設定、広告戦略を立案しました。
Do(実行)
新商品のプロモーションを展開。
広告をSNSやテレビ、店頭で一斉に配信し、顧客の反応を迅速に集めました。
Check(評価)
実際の売上データやオンラインレビュー、店頭での顧客フィードバックを収集。
広告の効果や商品がターゲット層に受け入れられているかを分析。
Action(改善)
評価結果を反映し、商品のデザイン変更や広告文言の修正、在庫管理の見直しを実施。
そして、次のシーズンの商品展開に活用しました。
このようにしてユニクロは、PDCAサイクルを活用してトレンドに迅速に対応し、競合他社との差別化に成功しています。
これにより、季節ごとの売上を安定的に増加させています。
PDCAサイクルに代わるフレームワーク
変化の激しい市場や顧客ニーズに対応するため、いま注目されているのがOODA(ウーダ)というフレームワークです。
OODA(ウーダ)ループでは、「Observe(観察)」「Orient(仮説構築)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」の4つのプロセスループさせます。
アクションを実行し、業務を改善する点はPDCAと共通しますが、大きな違いもあります。
PDCAとOODAの違い
OODAループとPDCAサイクルの最大の違いは、実行に至るまでのスピードです。
PDCAサイクルでは、計画段階にかなりの時間がかかります。
そのため、PDCAサイクルは工場の生産工程のように予期しない事態が起こりにくい環境での活用に向いていますが、新しいイノベーションを生み出す場面にはあまり適していないと言えるでしょう。
一方、OODAループは現状分析を出発点とし、変化が生じても柔軟に対応できます。
OODAループを高速で繰り返すことで、問題解決能力が向上し、修正を加えながらプロセスを進めるスキルが養われます。
状況に応じたフレキシブルな業務改善ループ、「OODA」ループは以下の記事で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください!
関連記事:OODA(ウーダ)ループとは?PDCAに代わる意思決定プロセス解説
おわりに
日々の業務に追われると当初立てた目標をつい忘れがちになり、オペレーションやルーチン作業ばかりに目が奪われてしまいます。
PDCAサイクルを回す事で当初立てた目標に対して、現在の進捗がどうなのか、何が課題なのか、どのようにして課題を解決するのか、といったことを常に考えるようになります。
初めは小さなサイクル、小さな改善でも構いませんので今回ご紹介した内容を参考にして、まずPDCAサイクルを回してみる事をお勧めします。
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