機能が似通う現代の市場では、提供価値の違いが顧客に伝わりにくく、商談が価格競争に陥りがちです。
価格競争から脱却し「選ばれる理由」を明確にするために注目されているのがバリュー・ベース・セリングです。
バリュー・ベース・セリングは、製品の機能ではなく、顧客が得られる具体的な成果や利益(価値)を中心に営業活動を行います。
本記事では、バリュー・ベース・セリングの概要、導入効果、実践方法について解説します。
この記事の内容
バリュー・ベース・セリングとは?
バリュー・ベース・セリングとは、顧客への価値提供に焦点を当てた営業戦略を指します。
顧客の生産性向上や収益増加など、顧客の目標達成に役立つ商品であることを示すことが重要なポイントです。
見込み顧客は日々多くの営業を受けていますが、強引な営業も見受けられます。
一方、バリュー・ベース・セリングは、競合他社との差別化を図り、より価値を提供することを重視することによって、顧客との長期的かつ信頼できる関係を築くことが可能になります。
顧客は商品の価格を重視しますが、それ以上に購入から得られる価値を重要視します。
バリュー・ベース・セリングは、価格やコストから、商品の本質的な価値へと見込み顧客の注意を向ける手法です。自社のサービス価格に疑問を持たれている場合でも、価値を感じてもらいやすくなるでしょう。
バリュー・ベース・セリングの導入メリット
競争の激しいBtoB市場で成長し続けるには、バリュー・ベース・セリングが欠かせません。
なぜなら単に製品を売るのではなく、顧客の事業目標の達成に貢献する「戦略パートナー」として営業活動を進める手法だからです。
本章では、バリュー・ベース・セリングが企業にもたらす具体的なメリットを、以下の3点に絞って解説します。
価格競争から脱却できる
従来の営業手法では、製品の優れたスペックや価格の安さを前面に押し出すため、価格比較やコスト削減に焦点が当たりがちでした。
しかし、バリュー・ベース・セリングでは、顧客のビジネスにもたらす成果や利益に焦点を当てます。価格だけでは測れない価値を強調することで、単純な価格競争に巻き込まれにくくなります。
バリュー・ベース・セリングの実践の結果、受注単価の向上や利益率の改善が期待できます。
つまり、価格以外の要素で競争優位性を確立できるのが、バリュー・ベース・セリングの大きな特長です。
顧客と長期的な関係構築が見込める
バリュー・ベース・セリングは、単発の取引で終わることを目指しません。顧客の課題解決や事業の目標達成に継続的に貢献することを重視します。
営業担当者は、製品・サービスを売る人ではなく、顧客の長期的な成功をサポートするパートナーという位置づけになるでしょう。
顧客のビジネス成果に貢献することで、深い信頼関係を築き、リピートやアップセル・クロスセルの機会が増加します。
カスタマーサクセスの強化にもつながり、顧客満足度とロイヤルティの向上にもつながるでしょう。
営業生産性が向上する
バリュー・ベース・セリングを取り入れることで、営業活動は単なるプロセス管理で終わるわけではありません。
価格だけを重視する顧客に時間を費やすのではなく、サービス・製品の導入価値を理解している優良顧客へリソースを集中できます。
その結果、従来の非効率的な訪問の繰り返しを避けることが可能になります。
さらに、提供価値を具体的に提示するため、顧客が意思決定に迷うことなく、商談の停滞を防げます。
結果として、短期的な売上拡大にとどまらず、営業活動全体の効率化と生産性の向上という大きなメリットが得られるでしょう。
関連記事:営業生産性とは?計算方法や低下する原因と高める方法を解説
バリュー・ベース・セリングの実践プロセス
バリュー・ベース・セリングを効果的に実践するためには、単なる製品の説明だけでなく、戦略的かつ体系的なプロセスを踏むことが不可欠です。
本章では、顧客のビジネス成果に結びつく提案を実現するための4つのステップについて解説します。
顧客理解を深める
まず1つ目は、顧客の状況を深く理解することです。顧客の事業目標や課題、業界の動向を正確に把握することで、顧客にとって価値ある提案が可能になります。
単に顧客自身が認識しているニーズだけでなく、潜在的な課題を引き出すことも重要です。オープンクエスチョンなどを活用し、顧客のビジネス背景や成功基準を詳細に探りましょう。
現状の課題が顧客の事業成果にどのような影響を与えているかを特定し、ビジネスインパクトを把握することが、後の提案の説得力を大きく左右します。
価値の定義と提案を行う
次のステップでは、顧客にとっての価値を具体的に定義し、提案を組み立てます。
価値を定義して提案を組み立てる際に重要なのは、製品やサービスの機能説明ではなく、顧客のビジネス成果に結びつく提案を行うことです。
提案は、顧客の収益向上、コスト削減、業務効率化にどう貢献するのかを明確にした成果ベースであることが求められます。一律の資料を使うのではなく、顧客固有の状況に基づくカスタマイズされた提案を心がけましょう。
また、ROI(投資対効果)などの数値化できる成果と、ブランド向上といった定性的なメリットをバランス良く提示することが、説得力を高める鍵になります。
価格証明の手法を考える
バリュー・ベース・セリングでは、提案した価値を裏付ける証拠の提示が欠かせません。具体的なデータや事例を活用し、顧客の納得感を高めて意思決定をスムーズにします。
過去の成果データや第三者の市場調査データなど、定量的なデータを積極的に活用しましょう。特に、導入後のビジネス成果を可視化するためにROIを具体的に計算して提示することが有効です。
同業他社や類似ケースの成功事例を示すことも、提案の信頼性を補強し、顧客の不安を軽減させるでしょう。
クロージングとフォローを行う
最終段階では、契約成立後も継続的に価値を提供する姿勢が求められます。短期的な成約だけでなく、顧客の長期的な成功に貢献し、信頼関係を深めていきましょう。
導入後の成果を定期的に確認し、効果を測定する価値提供のモニタリングが不可欠です。導入効果を報告して顧客に提供価値を再認識してもらう機会も作りましょう。
さらに、顧客からのフィードバックを元に、価値を高める提案を続けることで、バリュー・ベース・セリングは長期的な顧客パートナーシップの構築手法として機能します。
関連記事:クロージングとは?営業の成果を上げるコツ・テクニックを徹底解説
バリュー・ベース・セリングの課題と解決のポイント
バリュー・ベース・セリングは有効な手法ですが、現場では「価格交渉への逆戻り」や「部門間の連携不足」「顧客との価値認識のズレ」など、いくつかの障壁に直面しがちです。
現場の課題は、営業担当者のスキルや組織体制、顧客とのコミュニケーションの質に深く関わってきます。
本章では、特に重要な4つの課題に焦点を当て、その問題点と、具体的な解決策を分かりやすくまとめました。
価格交渉に依存している
バリュー・ベース・セリングの導入後も、多くの営業現場では商談の最終局面で価格論争に陥ってしまうことがあります。
価格競争に陥ってしまう課題を克服するため、以下の問題点を認識し、対策を講じることが必要です。
| 課題 (現状の問題点) | 解決のポイント (具体的な行動) |
|---|---|
| 価格交渉への回帰:価値提案を行ったにもかかわらず、最終的に顧客がコスト削減を優先し、価格交渉中心に戻ってしまう。 | 価格を「投資」として再定義:ROIの数値化や業務効率化の具体的な予測など、経済的インパクトを定量的に示し、価格の位置づけを転換する。 |
| 価値論理の崩壊:顧客の価格重視の姿勢により、せっかく築いた価値提案の論理が崩れてしまう。 | 比較を避ける構造の構築:複数の商品・サービスを組み合わせたバンドル提案を行い、単純な単価比較を避ける構造を作る。 |
解決に向けて実行することで、顧客の議論の焦点を「コスト」から「将来得られる成果」へとシフトさせ、優位性を確保できます。
組織全体での連携が不足している
バリュー・ベース・セリングの真の成功は、営業部門の努力だけでは達成できません。
顧客接点を持つ全部門の一貫した連携が不可欠ですが、部門間の壁が価値提供のボトルネックとなることがあります。
| 課題 (現状の問題点) | 解決のポイント (具体的な行動) |
|---|---|
| メッセージの不一致:営業、マーケティング、カスタマーサクセスなどの部門間で情報共有が不足し、顧客へのメッセージや提供価値に一貫性がない。 | 連携体制の構築と情報共有の徹底:経営層のコミットメントのもと、営業・マーケティング・CS間の連携体制を構築し、情報共有を徹底する。 |
| 継続性の欠如:全社的な取り組みになっていないため、顧客への継続的な価値提供が難しい。 | 実績データに基づくフィードバック:カスタマーサクセスが測定した実績データを営業・マーケティングにフィードバックし、提案の根拠と検証に活用する。 |
全社的な連携を強化することで、顧客は企業全体から一貫したサポートと価値を受け取っていると感じ、信頼感が向上します。
顧客と価値認識のズレがある
営業担当者が提案する「価値」と、顧客が期待する「成果」との間にズレが生じると、商談は停滞します。
価値と成果のズレは、商談の初期段階、すなわち顧客の本当のニーズ理解が不足していることに起因します。
| 課題 (現状の問題点) | 解決のポイント (具体的な行動) |
|---|---|
| 認識の不一致:営業担当者の提案する「価値」と、顧客側の期待する「成果」の間で認識の不一致が生じる。 | ヒアリングの質向上と深掘り:商談初期のヒアリングの質を高め、顧客の潜在的な課題や財務的影響まで深く掘り下げる。 |
| ニーズからの逸脱:商談初期で顧客の真の成功基準を深く理解できておらず、提案内容が顧客のニーズから外れる。 | 成功基準の事前すり合わせ:提案書提出前に、顧客の課題と期待成果をまとめた文書を作成し、必ず双方で認識をすり合わせる。 |
顧客と営業担当者間で共通の成功基準を明確にすることで、後の提案やクロージングプロセスがスムーズに進みます。
営業担当者のスキルが不足している
バリュー・ベース・セリングの核となるのは、顧客のビジネスを深く理解し、文脈に合わせた価値を創造・提案する能力です。
従来の製品知識に依存した営業スタイルから脱却できず、価値提案に必要なスキルが不足していることが、提案の質を下げる大きな課題となります。
| 課題 (現状の問題点) | 解決のポイント (具体的な行動) |
|---|---|
| 知識・スキル不足:価値提案に必要な業界知識やビジネス構造を理解するスキルが不足している。 | 体系的なトレーニングの実施:ビジネスモデル分析、高度なヒアリング技術、データに基づいたプレゼン能力を強化するための体系的なトレーニングを継続的に実施する。 |
| 浅い課題認識:顧客の課題を表面的な部分でしか捉えられず、真に響く深い価値提案ができない。 | ベストプラクティスの共有:成功した商談のベストプラクティスを分析・共有し、チーム全体のスキルレベルを底上げする。 |
営業担当者のスキルを継続的に向上させることで、複雑なBtoB環境においてもコンサルタントに近い役割を果たし、顧客に信頼される存在となることができます。
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まとめ
バリュー・ベース・セリングは、価格や機能ではなく、顧客が得る成果に基づいて価値を伝える営業手法です。価格競争から脱却し、長期的な関係構築や営業生産性の向上につながります。
実践には、顧客理解や価値の定量的な証明などの体系的なプロセスが欠かせません。
中でも、顧客の文脈を深く読み取り、価値を言語化し、提案に落とし込む“営業スキル”が成果を大きく左右します。
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