目標管理制度を導入することで、社員のモチベーションが高まり組織としての生産性が向上すると期待されています。
しかし、運用を間違ってしまうと逆に現場のモチベーションが下がってしまうこともあります。
正しい目標管理を設定するにはどうしたら良いのでしょうか。
今回の記事では目標管理の本来の目的とモチベーションを引き出す4つのコツをご紹介します。
MBO(目標管理制度)とは
目標管理(Management by objectives MBO)とは、上司が部下の目標を立てて指示するのではなく、個々の担当者が自ら目標を設定し、その目標に対する進捗や実績状況を主体的に管理する組織マネジメント手法の1つです。
1950年代に米国のドラッカーが提唱したとされています。
本人の自主性に任せることで主体性が発揮され、結果的に大きな成果に繋がるという人間観と組織観に基づいています。
また、本人が主体的に動くことでモチベーション向上にもつながり、業績向上や生産性向上に寄与すると考えられています。
MBOとOKRやKPIとの違い
MBOと似た考え方に「OKR」と「KPI」があります。OKRは「Objectives and Key Results」の略で、直訳すると「目標と主要な成果」です。
アメリカではGoogleやIntelが採用し、大きな話題となりました。「KPI」は「Key Performance Indicator」の略で、「重要業績評価指標」と訳されます。
OKRは目標管理という点でMBOやKPIと似ていますが、実施の目的、目標の共有範囲、達成率の設定という3つの観点で異なります。
また、MBOやOKRはマネジメント手法であるのに対し、KPIは「指標」を表す言葉です。 例えば、営業担当が「新規顧客を毎月〇件獲得する」という目標を立てた場合、「新規顧客獲得数=営業数×商談化率×獲得率」という数式に基づいて目標の達成度を測ります。
この「営業数」「商談化率」「獲得率」などの中間指標をKPIと呼びます。 MBOとOKRやKPIはどれか一つを選ぶのではなく、併用することでMBOの目標設定や手段がさらに具体的になるという相乗効果が期待できます。
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MBOのメリット
多くの企業でMBOが導入されていますが、そのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。本章では、社員と組織それぞれの立場からメリットを解説します。
社員にとってのメリット
まずは、社員にとってのメリットを解説します。
自己管理能力の向上
MBOでは、社員が自ら目標設定を行います。上司とのコミュニケーションを通じて自律的に行動し、最終的に目標達成を上司が評価します。
このプロセスにより、業務量やスピードをコントロールする能力が向上し、自己管理能力が高まるでしょう。
達成感を得られる
MBOでは、設定した目標に向かってスキルアップや主体的な行動が求められます。
上司から与えられた目標をこなすのではなく、自身で設定した目標に向かって取り組むため、日々の仕事に対する意識が変わります。 目標を達成した際には、自己成長を感じることができ、仕事へのモチベーションも向上します。
これにより、社員のキャリア向上にもつながる可能性があります。
組織にとってのメリット
組織にとってのメリットは以下の2点が考えられます。
社員にとってのメリット
MBOでは、経営理念やチーム目標を基に、各社員が自ら目標を設定します。
目標達成に向けて、自身に不足しているものや必要な行動を考えることで、社員の主体性が向上します。その結果、組織全体のパフォーマンスも向上が期待できます。
MBOでは、会社の方針と社員自身の目指す方向性を擦り合わせる過程で、経営理念や事業戦略が全社に浸透しやすくなります。設定した目標が組織の利益にどうリンクするかが明確になるため、社員は自分の役割を具体的に理解できます。
これにより、社員は仕事への意義ややりがいを見出しやすくなり、エンゲージメントの向上や離職率の低下も期待できます。
透明性の高い評価制度の構築
MBOでは、達成すべき指標や期限が明確に定められ、目標の達成度や進捗状況を数字で評価します。これにより、評価が客観的かつ透明性の高いものとなります。
また、評価基準となる数値は社員自らが設定するため、評価に対する納得感も得やすくなります。これにより、公平で信頼性の高い評価制度を構築することができます。
MBOのデメリット
MBOは社員のモチベーション向上やスキルアップに寄与しますが、取り組み方によっては逆効果になる場合もあります。注意すべき2つのケースをご紹介します。
モチベーションの低下
MBOでは「目標が達成できたか」に焦点が当たるため、結果に過度に注目する傾向があります。
以下のような場合にモチベーションが低下することがあります
- 個人目標と行動計画がマネジメントから一方的に決められた場合
- 実力以上に高い目標や達成の見込みがない目標を設定された場合
- 簡単に達成できる目標を設定された場合
このように、社員の自主性やスキルを無視した目標設定はモチベーション低下につながります。
特に、MBOでは個々の目標が異なるため、評価基準もそれぞれ異なります。 評価に納得できない場合や適切に評価されていないと感じる場合、モチベーションが低下する可能性があります。
さらに、新入社員やMBO導入間もない企業では、適切な目標設定方法やフィードバックが不足していると、モチベーションの低下につながります。
新入社員や経験の浅い社員に対しては、目標設定のワークショップやトレーニングを実施し、目標進行状況のチェックやフィードバックを定期的に行うことで課題や改善点を早期に発見するようにしましょう。
業務効率の低下
MBOの実施が目的化してしまうと、手段が本来の目的を逸脱して機能しなくなることがあります。
MBOは本来、社員が自ら目標到達までを管理することで成果を上げる手段です。しかし、面談や目標管理が目的化し、これらの作業負担が大きくなると、かえって業務効率を下げてしまう可能性があります。
面談や目標管理が煩雑になると、管理自体が目的化しやすくなります。この問題を防ぐためには、プロセスを簡潔にし、手段が目的化しないようにします。 また、MBOの本質的な目標や意義を常に社員に伝え、手段が目的化することの問題点を共有することが重要です。
MBOの実施方法
次に、MBOの進め方と各ステップのポイントを確認していきます。MBOは主に次の4つのステップに沿って運用できます。
目標設定
MBOの運用は目標設定から始まります。成果や一人ひとりの成長のためには適切な目標設定が重要です。
目標設定を行う際には、まず企業や部署、チームといった組織単位の目標を従業員に周知します。個人の目標が最終的に組織の目標(利益)につながる必要があるためです。
個人目標は従業員本人が自主的に設定します。目標管理制度という名前から誤解されがちですが、MBOは組織として目標を管理するだけでなく、個人が目標を管理する手法でもあります。
自己管理能力を伸ばすためにも、また評価への納得度を高めるためにも、自主的な目標設定が重要です。
一方で、従業員が設定した目標をそのまま使用するわけにはいきません。 上長は企業の利益や部下の成長の観点から目標の方向修正を行う必要があります。具
体的には次のポイントに注意して目標を確認します。
- 組織の目標(利益)につながる内容か?
- 部下の能力に対して適切な難易度の目標か?
アクションの策定と実施
従業員と上長がすり合わせて決定した目標の達成に向けて行動を開始します。
まず、目標達成の期日から逆算し、必要なアクションを洗い出します。
その後、優先順位の高いアクションから実行に移していきます。アクションに移した後は、改善点がないかを振り返り、学び経験したことを次のアクションに活かしていきます。
進捗確認
目標達成に向けたアクションが開始されたら、定期的に上長による進捗確認を行います。 具体的には、部下に日報や週報を作成してもらったり、1on1ミーティングを実施する方法があります。
評価と振り返り
期末など目標の期日ごとに個人目標の達成度を評価します。各従業員が自己評価を行った後、上長が客観的な評価を行います。
ここで重要なのは、努力度ではなく目標の達成度に対して客観的な評価を行うことです。 目標達成した理由や達成できなかった原因、次にどうすべきかを部下に振り返ってもらい、これをサポートすることで部下の成長を促します。
単なる進捗状況だけでなく、良い点・悪い点、問題や課題などについて問いかけ、自己の振り返りを促します。 時には問題解決に向けたアドバイスを行ったり、目標や行動計画の修正を提言する必要もあります。
ここで注意したい点は、上司が一方的に方向性を定めないようにすることです。本人主体で目標や行動を検討してこそ、目標管理能力や問題解決能力の向上につながります。 組織の利害に大きく関わることでなければ、上司は部下のサポートに注力しましょう。
効果的な目標設定のポイント
目標設定を行う際には、以下のポイントに意識して取り組むことをおすすめします。
現場を目標設定に参加させる
部下への指示命令を開放し、自分自身に自己管理させることで目標達成に対するモチベーションを上げることができます。
目標を押し付けるのではなく、部下自ら設定させることが重要です。 部下に考えさせることで組織とのコミット感が生じると同時に目標に対しての意識も高まり、より大きな成果を得ることができるのです。
人から与えられた目標よりも自分が関与したもののほうが、達成に向けての責任感が増すことは明らかです。
部下に目標を全て任せると、現状とほとんど変わらない目標になってしまう可能性があります。 上司やリーダーが部下に対して会社や部門の方針を伝え、目標の方向性をサポートする必要があります。
目標を達成する方法を明確にする
どうすればその目標を達成できるのかを明確にできれば、自分の設定する目標達成状況がイメージでき、達成に至るまでの手段やプロセスがはっきりします。
また、目標を達成したときに顧客や関係者にどのような満足を与えられるのか、どのような賞賛を得られるのかなど、具体的にイメージすることもできるはずです。
うまくいっていない組織では、ゴールのイメージが付きにくかったり、あいまいな目標が設定されていたり、毎年同じような目標が設定されていたりするケースが多々見られます。
目標が漠然としていては、上司も指導することが難しくなってしまいます。 具体的には、目標数字を月次や週次レベルに分解をし、そのために必要なアクションプランの設定なども行うと目標達成のために動けるようになるかと思います。
定期的にフィードバックする
部下が自己設定した目標をそのまま放置したり、自分で設定した目標だから必達すべきと言ってみたり、部下に放り投げるような行動を上司やリーダーがしてはいけません。
設定した目標に対して、定期的に面談を行い進捗状況の確認や、ゴ
ールイメージの再確認、そしてチーム編成や目標の見直しを行います。
この面談の際には主語を「目標」にするのではなく、「部下」を主語にすると良いでしょう。 主語を部下とすることで、例えば「この目標について○○君(部下)はどう思う?」や「今の状況はこういう結果だけど、期末は○○君はどうしていたいの?」と質問をして、部下が自ら目標を設定するようにしましょう。
目標を見直す際、部下が再度目標を設定することで当初の目標の反省を自発的に促すと同時に、修正した目標に対するアプローチを具体的にイメージすることができるはずです。
関連記事:正しいフィードバックのやり方とは?効果が出る3つのポイントを解説!
適切な目標を設定する
より高い目標、より困難な目標にチャレンジすることがモチベーションの要因となるのは、挑戦しがいのある目標を達成した時の喜び、充実感が大きいからです。
しかし、これはセルフモチベーションの高い社員、低い社員によって左右されます。 セルフモチベーションが低い社員は簡単に達成できるような目標を設定し、モチベーションは低くなってしまいます。
逆にセルフモチベーションが高い社員は、より困難でチャレンジングな目標を設定するため、モチベーションが保ちやすくなっています。 目標管理制度が機能していない組織では、社員が簡単な目標しか設定せず、結果的に組織全体のモチベーションが低いということがあります。
セルフモチベーションが低い社員に関しては、より高い目標の達成イメージが具体的にイメージ出来ていないからです。 このような場合は上司やリーダーが目標設定時によく話し合い、「今よりも少しだけ高い目標」を設定するなどコントロールして目標達成が具体的にイメージできるようサポートするとよいでしょう。
ストレッチ目標を設定する
部下のモチベーションややりがい、動機づけには、適切な難易度の目標設定が重要です。
そこで、少し頑張れば手が届きそうな難易度の「ストレッチ目標」を立てることを意識してみましょう。 ストレッチ目標とは、努力すれば達成できそうな、その人のスキルや能力に見合った適切な難易度の目標のことです。
難易度を単に下げればよいというわけではなく、努力次第で達成可能と考えられる目標を設定します。簡単に達成できてしまう目標では社員は成長せず、反対に極端に達成が難しい目標だとモチベーションが低下してしまうことも考えられます。
無理をしないが、チャレンジを要するラインを見極め、目標設定を行いましょう。 また、ストレッチ目標の達成は自信につながります。
チーム全体が良い雰囲気となり、「次はもう少し高い目標を目指してみよう」と、より高い目標の達成にチャレンジする意欲も生まれます。
まとめ
ここまで、目標管理制度を運用するために重要なポイントや具体的な進め方を解説してきました。
正しく目標管理制度を運用することが出来れば、社員のモチベーションも向上し生産性の高い営業チームが作れるようになるでしょう。
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