保険業界では、新規契約者数が伸び悩んだり、代理店を介した顧客との接点づくりに限界を感じるなど、多くの課題を抱えています。
こうした課題を解決するには、顧客が持つライフスタイルや価値観の多様化、デジタル化の流れへ迅速に対応しなくてはなりません。
こうした問題に対応するうえで注目を集めているのが、CRMの導入です。この記事では、保険業界ならではの、CRMを活用するメリットを紹介します。また、導入時のポイントや注意すべき点も具体的に解説します。
この記事の内容
保険業界にCRMが必要な理由
保険業界でCRMが必要となる理由として、以下の4つの課題があげられます。
- 多様化する顧客の価値観に対応する
- 成約率を高める
- デジタル化を進める
- 顧客との接点を増やす
これらの課題について、詳しく見ていきましょう。
多様化する顧客の価値観に対応するため
保険を契約する顧客のライフスタイルや価値観は、多様化が進んでいます。
「ひとつの企業に定年まで勤める」のではない、定番の形とは異なる働き方を選ぶ人たちが増えています。「生涯独身生活を楽しみたい」といった選択肢をとる人も多くなってきました。
このような多様化した顧客のライフスタイルに応えていく必要があります。たとえば、顧客の価値観に合わせて、保険商品もより柔軟にカスタマイズすることが重要です。
これまでのマス向けに進めてきたマーケティングでは、自社商品の魅力が響かないかもしれません。そのため、One to Oneマーケティングを通じて、細かな顧客ニーズに合わせて施策や提案を進める重要性が高まっています。
成約率を高めるため
保険業界では新規契約者数が増えづらくなっており、成約率を高めることが求められています。2024年の生命保険協会による調査では、個人保険の新規契約数は1年前と比べて7.2%減少し、1,719万件となりました。
契約者数を増やすには、CRMを利用して集めた顧客データを分析するのが効果的です。たとえば、顧客の属性や行動履歴に関するデータをもとに、顧客の持つ潜在的なニーズや購買に対する意向を点数化できます。
点数の高い顧客をターゲットとすれば、成約率の引き上げにつながるでしょう。
こうした取り組みを通じて成約が見込めるリードに注力しやすくなります。成約率の低い活動を減らし、営業効率を大幅に改善できることが期待できるのです。
デジタル化を進めるため
近年ではさまざまな業種を含むビジネス全体で、デジタル化による業務効率化が進んでいます。営業の場面でも、デジタルツールを活用することで、直接には対面しない形での接客が増えています。
しかし保険業界では、顧客と直接会って提案するのが今でも主流です。また、契約や保険金請求の手続きでは紙でのやり取りが多いです。
こうした背景から、保険業界ではCRMを含むデジタル化が遅れている傾向にあります。デジタル化によって顧客対応や手続きをスムーズに進めることは、顧客満足度の向上や業務効率化を進めるうえで欠かせません。
顧客と接点を増やすため
CRMを活用した情報発信を進めると、顧客との接点を増やす効果があります。代理店を介さずに顧客と直接やり取りする機会を増やすことで、顧客が保険会社に対して信頼感を抱くようになるでしょう。そうなれば、将来の成約率の向上にもつながります。
特に損害保険会社は、代理店を通して保険サービスを販売する場合が多くあります。そのため、顧客が直接やり取りするのは代理店のスタッフとなります。契約に必要な情報以外は代理店が持つことが多く、保険会社が顧客ニーズを把握するのが難しくなってしまうのです。
CRMを利用してニーズにあう情報提供ができれば、顧客の保険会社に対する信頼が高まります。また、保険会社からのはたらきかけに対する顧客の反応や行動も、有益な情報です。こうしたデータを集めることで、顧客に対する理解を深め、顧客中心のサービス提供を強化するのに役に立ちます。
保険業界にCRMを導入するメリット
保険業界にCRMを導入することで、次にあげる3つのメリットがあります。
- 業務の効率化につながる
- 顧客に対する最適な商品提案ができる
- 異なる部署でも同じ情報にアクセスできる
これらのメリットを通じて、顧客からの信頼感の獲得や、成約率の向上などにつながるのです。CRMのメリットは、次の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:CRMシステムを導入する3つのメリットと機能|選定のポイントとは?
業務効率化につながる
CRMシステムを利用することで、多くの業務を効率化できます。
たとえば、定型業務を自動化できます。保険更新が近づいた時の連絡は、タイミングが決まっていれば、日時をあらかじめ予約して自動送信が可能です。また、メッセージを読んでいない顧客に向けて、更新の案内を見るように改めて連絡するのもCRMに任せられます。
顧客に関する情報を蓄積し、社内全体でスムーズに共有することも可能です。顧客からの問い合わせや対応すべき内容など、業務を進める上で必要となる情報をすばやく検索できます。
保険代理店では、既存顧客へのアフターフォローにきちんと取り組むのが重要です。取り組みを進めるためには、保険の定期更新に関する連絡や、契約内容の変更についてきちんと確認をとる必要があります。
多くの顧客を抱える保険代理店では、個別の顧客情報をきちんと把握し対応するのには、とても大きな手間や時間がかかります。そのため、CRMシステムの導入による業務効率化が大きな効果を発揮するのです。
業務効率化については、次の記事も役立つでしょう。
関連記事:業務効率化の進め方とは? 6つのアイデア・おすすめツールを紹介
顧客にとって最適な商品提案が可能になる
保険業界がCRMを導入すれば、顧客のライフイベントに基づき、最適な商品を提案できるようになります。
CRMを用いて顧客情報を収集すれば、結婚や住宅購入などの重要なライフイベントの時期を予測・把握できます。こうした情報を活用すれば、保険会社は顧客のニーズに合わせて商品を提案することが可能です。たとえば、顧客が結婚したという情報を入手すれば、そのタイミングで家族向けの生命保険を提案できます。
ライフイベントに合わせた商品を提案すれば、顧客満足度を高められます。顧客のロイヤリティが高まっていくことで、長期的な関係を構築できるようになるのです。
異なる部署が同じ情報にアクセスできる
CRMによって、営業・マーケティング・カスタマーサービスなど異なる部署が、同じ情報にすぐにアクセスできます。顧客に関する情報を社内全体で一元化し、共有できるからです。
たとえば東京海上日動火災保険では、営業担当のスケジュールや、カスタマーセンターで顧客とやり取りした内容をCRMによって共有しました。その結果、ある代理店では新規契約が前年度比で140%増加したと報じられています。
異なる部署が同じ情報にアクセスすることで、社内での情報共有や連携を強化できます。こうした動きが業務の効率化やすばやい顧客対応につながり、最終的には高い品質のサービスを提供できるようになるのです。
参考:日経XTECH「東京海上日動が新CRMで代理店の新規契約140%増も、デジタルアダプションが支援」
保険業界がCRMを導入する際のポイント
保険業界がCRMを導入する際には、きちんと考えておくべきポイントがあります。
特に、以下にあげる5つの点については、事前にしっかりと検討しておきましょう。
- 導入目的を明確にする
- 顧客情報を定期的にアップデートする
- 使いやすさを重視する
- サポート体制を確認する
- 少しずつ導入を進める
導入目的を明確にする
CRMを導入する際には、目的を明確にすべきです。何のためにCRMを導入するかをはっきりさせれば、自社に合った機能を搭載したシステムを選べるようになります。
導入の目的としては、以下のようなものが考えられます。
- ある業務の進め方や作業内容を改善したい
- 空いた時間に取り組みたい業務がある
- 具体的な数値や顧客満足度を改善したい
保険会社の中には、顧客対応に時間が取られて、新規の契約獲得がうまくいかない会社もあるかもしれません。そうした状況であれば、CRMを導入することで業務効率を高められるでしょう。
顧客情報を定期的にアップデートする
CRMシステムに蓄積する顧客情報は、定期的にアップデートすることが重要です。
以前と比べると現在は価値観が多様化してきました。価値観や社会の移り変わりによって、過去に決めたライフプランが大きく変化する可能性もあります。そうなれば、顧客のライフプランや生活のために、必要な資産額が変わり得るでしょう。
顧客のライフプランが変わってしまった際には、それに合わせた適切な契約を提案できることが求められます。そのためにも、定期的に契約者の状況を確認し、情報を更新しておく必要があるのです。
使いやすさを重視する
CRMを導入する際には、機能の多さだけではなく、社内スタッフにとって使いやすい製品かを重視しましょう。どんなに高機能でも、スタッフから見て操作が難しければ、誰もCRMを使ってくれません。そうなれば、システム本来の力を発揮できなくなってしまいます。
導入するシステムは、直感的に操作できる製品が望ましいです。特に、CRMに慣れていないスタッフでも使いやすいことが求められます。
また保険代理店では、スタッフの外出が多いため、出先でも直感的に操作できるCRMシステムを導入するのがおすすめです。
株式会社Mazricaが実施したSFA/CRMの利用実態と活用課題に関する調査では、多くの企業が 「入力のしにくさ」 を課題に感じていることが明らかになりました。
SFA/CRMの利用課題として、43.6%の企業が「情報の入力・更新が複雑」 と回答し、40.6%の企業が「営業メンバーが情報を入力しない」 という課題を抱えていることがわかっています。
また、同調査で、現場の営業パーソンがSFA/CRMに入力しない理由として、第一位に挙げられるのは「入力作業䛻時間がかかるから」でその割合はなんと54.5%にも上ります。
このことから、操作性が高く、入力負荷の低いツールを選定することが大切であることがわかります。
▶︎▶︎CRMツールごとの違いについて詳しく知りたい方は、こちらの資料をご覧ください。
サポート体制を確認する
CRMを導入する前には、ベンダーがどのようなサポートを提供してくれるかをしっかり確認しましょう。CRMは製品ごとに、どのようなサポートをしてくれるか、内容が異なります。
たとえば、次のようなサポート体制があるかどうか、また必要か否かを確かめておくとよいでしょう。
- CRM導入プロジェクトの管理・進行
- 顧客や契約に関するデータの整備や移行
- 操作マニュアルの整備やスタッフへの周知
CRMの初期設定や、稼働が始まった後の運用方法について疑問が生じたら、そのたびに丁寧に応対し解消してくれるサポートがいれば理想的です。
少しずつ導入を進める
自社でCRMを新たに導入する際には、部署や業務を限る形で、少しずつシステムを入れていくとよいでしょう。社内全体で新しいシステムを一斉に導入すると、すべての部署で業務フローを大きく変える必要があります。不慣れな業務手順ではミスの発生は避けられず、現場の混乱を招く可能性が高いです。
特に、契約や顧客情報を紙の書類で管理している企業では注意が必要です。CRMシステムを大規模に導入すると全社員が大きく戸惑うことになるでしょう。
CRMを導入し始める時期は、保険代理店側のシステム担当者もCRMの使い方に慣れていません。代理店の現場スタッフからCRMに関する質問が来ても、スムーズに回答できないおそれがあります。
CRMを導入するポイントは、次の記事も参考にしてください。
関連記事:CRM導入の成功事例5選|課題・運用方法・効果・導入時のポイント
保険業界がCRMを導入する際の注意点
保険業界の会社がCRMを導入する際には、気をつけておくべき点もあります。下にあげた3点には、とくに注意しておきましょう。
- 現場の意見をおろそかにしない
- コストだけで判断しない
- 顧客データの漏洩や不正アクセスに注意する
現場の意見をおろそかにしない
CRMを導入する前に、現場で働く従業員の意見をしっかり聞きましょう。特に、営業やカスタマーサポートなど、顧客と直接やり取りするスタッフの声はとても重要です。
現場のスタッフは、顧客と接する中で得た貴重な情報や気づきを持っています。現場社員のニーズを把握できれば、CRMにどのような機能が必要か、設計で注意すべき点は何かを知ることが可能です。その結果、CRM導入後の効果も高まります。
現場の意見を尊重すれば、スタッフの抵抗感が減り、新しいCRMをスムーズに受け入れてもらえることも期待できます。
コストだけで判断しない
CRMシステムの導入には初期費用や運用コストが伴いますが、短期的な費用だけで判断を下すのは避けましょう。
短期的なコストを減らすことばかり優先して、システムの機能やサポートが不十分になる場合があるからです。長い目で見れば顧客満足度や業務効率が下がってしまい、かえって費用が膨らんでしまうおそれもあります。
CRMを導入するか否かは、費用だけではなく、導入による投資効果も分析して決めるべきです。CRMを利用したとして、将来的に生み出せる価値や利益を考慮した上での判断が重要です。
顧客データの漏洩や不正アクセスに注意する
CRMを利用する際には、顧客データの漏洩や不正アクセスには十分に注意する必要があります。
保険会社は顧客に関する重要な個人情報を持っており、データが漏れてしまったときのリスクが特に大きいと言えます。顧客データの漏洩や不正アクセスを防ぐために、セキュリティを強固にしておくことが必要です。
こうしたデータの漏洩や不正アクセスに対処するには、定期的なセキュリティチェックを行うのが重要です。セキュリティチェックには、たとえば以下のような活動があげられます。
- スキャンをかけて、CRMシステムに脆弱性がないか確認する
- 定期的にデータをバックアップする
- アクセスや操作の履歴(ログ)を監視する
新たな脅威や脆弱性が発生するおそれもあるため、必要に応じてシステムを更新しなければなりません。
従業員に対するセキュリティ教育を進め、セキュリティの重要性を理解させる取り組みも必要です。特に、スタッフによるデータやパスワードの適切な管理は、漏洩や不正アクセスを防ぐために欠かせません。
▶︎▶︎失敗しない、CRMの導入ステップについて知りたい方はこちらの資料もご覧ください。
まとめ
保険業界では、新規契約者数の伸び悩みや、多様化する顧客ニーズに対する取り組みなど、たくさんの課題を抱えています。
CRMの導入は、これらの課題に立ち向かうために有効な手段です。CRMを活用すれば、業務効率化や顧客ニーズにあった商品提案、部署間での情報共有といったメリットが期待できます。
一方で、導入には慎重な準備も必要です。目的の明確化や使いやすさを重視すること、段階的な導入、現場スタッフの意見集約、そしてセキュリティ対策などがあげられます。現場スタッフに利用してもらうための意見集約と対応を怠らない点が、CRM導入を成功に導くためのポイントです。

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