「御用聞き営業」と聞くと、受け身で古いスタイルを想像するかもしれません。
しかし、その本質は顧客との強固な信頼関係を築く上で不可欠な要素です。
本記事では、御用聞き営業の基本的な定義から、そのメリット・デメリットを深く掘り下げます。
さらに、対極とされる提案営業との関係性を解説し、両者を融合させて成果を最大化する現代的な営業戦略を具体的に解説します。
営業の基盤を固めたい方はぜひ読んでみてください。
この記事の内容
御用聞き営業を見直すべき理由
ビジネスの現場で「御用聞き営業では通用しない」という言葉を耳にすることがあります。
顧客の言う通りに動くだけの受け身なスタイルと捉えられ、時代遅れの象徴のように語られることも少なくありません。
しかし、本当に御用聞き営業は不要な存在なのでしょうか。
結論から言えば、御用聞き営業の本質を理解し、正しく実践することは、現代の営業活動において極めて重要です。
むしろ、多様化・複雑化する顧客ニーズに応え、長期的な関係性を築くための基盤となり得えます。
御用聞き営業の本質とは
御用聞き営業とは、定期的にお客様を訪問したり連絡を取ったりして、「何かお困りごとはありませんか?」「ご注文はありますか?」と、お客様の要望や注文を伺い、それに応える営業スタイルを指します。
一見すると、非常にシンプルで受け身な活動に思えるかもしれません。
しかし、優れた御用聞き営業は、顧客との継続的な接触を通じて、深い信頼関係を構築します。
お客様が何か必要としたときに、「まずはあの人に相談してみよう」と真っ先に顔を思い浮かべてもらえる存在になることが、御用聞き営業が目指すべきゴールです。
この信頼関係という土壌があって初めて、お客様は安心して注文を任せ、時には社内の情報や悩み事を打ち明けてくれるようになるのです。
提案営業との違い
御用聞き営業が顧客の「顕在的なニーズ」に応える受け身のスタイルである一方、提案営業は、顧客自身がまだ気づいていない「潜在的な課題」を見つけ出し、その解決策を提示する営業手法です。
御用聞き営業が「何かお困りごとはありませんか?」と尋ねるのに対し、提案営業は「もしかしたら、〇〇という課題があるのではないでしょうか?」と、仮説を立てて投げかけます。
顧客の業界動向や競合の状況、そして自社のソリューションに関する深い知識を武器に、顧客のビジネスをより良い方向へと導くことが目的です。
関連記事:提案営業とは?メリットや商談の進め方、ポイントを解説
御用聞き営業が求められる具体的なシーン
御用聞き営業は、特にルートセールスのような、既存顧客との関係性を維持・発展させることが重要なビジネスモデルにおいて、その真価を発揮します。
例えば、定期的に消費される事務用品の納入、工場の生産ラインで使われる消耗部品の供給、あるいは飲食店の食材卸など、顧客の事業活動に密接に関わる領域では、安定した供給と細やかな対応が求められます。
このような場面で、「いつも通りお願いします」という一言の裏にある安心感を提供し、滞りなくビジネスを支えるのが御用聞き営業の重要な役割です。
関連記事:ルート営業とは?一般営業との違いやメリット・営業管理のポイントを解説
御用聞き営業のメリット
御用聞き営業を丁寧に行うことは、企業や営業担当者にとって多くのメリットをもたらします。
ここでは、その代表的なメリットを3つの側面から見ていきましょう。
顧客との強固な信頼関係の構築
最大のメリットは、何と言っても顧客との強固な信頼関係を築けることです。
頻繁に顔を合わせ、何気ない会話を交わし、小さな要望にも迅速に応えるといった、地道な活動の積み重ねが、「この人はいつも気にかけてくれる」「この会社に任せておけば安心だ」という信頼感に繋がります。
信頼関係は、一度築き上げると簡単には揺らぎません。
万が一、多少のトラブルが発生したとしても、「いつもの担当者が言うなら」と、冷静に話を聞いてもらえる土壌ができます。
これは、ビジネスを長期的に安定させる上で非常に価値のある無形資産と言えるでしょう。
安定的・継続的な売上の確保
既存顧客との信頼関係は、安定した売上という具体的な成果に直結します。
顧客のビジネスサイクルやニーズを深く理解しているため、適切なタイミングで必要な商品やサービスを供給し続けることができます。
これにより、毎月の売上予測が立てやすくなり、事業計画の安定化に大きく貢献します。
また、顧客満足度が高い状態を維持することで、顧客が長期にわたって自社の商品やサービスを使い続けてくれる可能性が高まります。
これは、顧客一人ひとりが生涯にわたって企業にもたらす利益、いわゆるLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化に繋がる重要な要素です。
関連記事:LTV(ライフタイムバリュー)とは?意味と計算方法・LTV向上に有効な営業戦略
顧客ニーズを正確に把握
御用聞き営業は、顧客の最も近くにいるからこそ得られる、貴重な情報の宝庫です。
定期的な訪問や対話の中で、顧客が現在抱えている課題や、将来的に検討している計画、あるいは競合他社の動向といった生の情報に触れる機会が豊富にあります。
「最近、この作業に時間がかかって困っているんだ」「来期は新しい事業を始めようと考えていてね」といった一言は、次のビジネスチャンスに繋がる重要なヒントです。
こうした顕在化されたニーズをいち早く掴むことができるのは、日頃から顧客の懐に入り込んでいる御用聞き営業ならではの強みです。
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御用聞き営業のデメリットと限界
多くのメリットがある一方で、御用聞き営業だけに終始していると、いくつかの壁に突き当たることがあります。
そのデメリットと限界を正しく理解しておくことが、次なるステップに進むために不可欠です。
大きな売上向上や新規顧客開拓に繋がりにくい
御用聞き営業は、基本的に「お客様の要望に応える」というスタンスです。
そのため、顧客が求めている以上の提案、つまりアップセルやクロスセルに繋がりにくく、売上が既存の取引額から飛躍的に伸びることは稀です。
あくまで現状維持、あるいは緩やかな成長に留まる傾向があります。
また、既存顧客への対応に時間とリソースを集中させるため、新たな市場や顧客を開拓する活動が手薄になりがちです。
変化の激しい市場においては、既存顧客への依存度が高すぎることがリスクになる可能性も否定できません。
関連記事:アップセル・クロスセルとは?意味や売上向上の方法と成功事例を解説
価格競争に巻き込まれやすい
提供する価値が「言われたことをきちんとやる」という範囲に留まっていると、他社との差別化が難しくなります。
その結果、顧客が取引先を選ぶ際の判断基準が「価格」に傾きがちです。
競合他社が少しでも安い価格を提示してきた場合、「いつもお世話になっているから」という理由だけでは引き留めるのが難しくなり、厳しい価格競争に巻き込まれてしまうリスクを常に抱えることになります。
付加価値による差別化ができていないことの裏返しとも言えるでしょう。
営業担当者の成長機会の停滞
常に受け身の姿勢で仕事をしていると、営業担当者自身のスキルアップが限定的になる可能性があります。
顧客の課題を自ら発見し、解決策を考え、ロジカルに提案するといった能動的な能力が育ちにくいのです。
ルーティンワークをこなすことには長けていても、複雑な課題解決やコンサルティング能力が求められる場面で力を発揮できないという事態に陥りかねません。
これは、担当者個人のキャリアにとってだけでなく、企業の将来的な営業力を考えても大きな課題となり得ます。
関連記事:売れる営業人材の育成方法|計画の立て方・ポイントを解説
御用聞き営業と提案営業どちらを選ぶべきか
御用聞き営業のメリットとデメリットを見てくると、「やはりこれからは提案営業にシフトすべきなのか」と考えるかもしれません。
しかし、その二者択一の考え方こそが、営業の可能性を狭めてしまう罠です。
対立ではなく融合で考える
結論として、現代の営業に求められるのは、御用聞き営業か提案営業かの「どちらか」ではなく、両者を「融合」させたハイブリッドなスタイルです。
先述の通り、提案営業とは、顧客がまだ気づいていない課題(潜在ニーズ)を指摘し、その解決策として自社の商品やサービスを提示する、能動的でコンサルティング要素の強い営業スタイルです。
御用聞き営業と提案営業は二つは対立する概念ではありません。
むしろ、御用聞き営業で築いた強固な信頼関係という「土台」の上に、的確な「提案」を積み上げていくという関係性で捉えるべきです。
信頼関係のない相手からいくら素晴らしい提案をされても、顧客は簡単には心を開きません。「本当にうちのことを分かってくれているのか?」という疑念が先に立つからです。
一方で、信頼はしているものの、いつも言われたことしかしてくれない相手には、物足りなさを感じてしまうでしょう。
御用聞きから提案へ昇華させるためのステップ
では、具体的にどのようにして御用聞き営業を提案営業へと昇華させていけばよいのでしょうか。
徹底した情報収集と傾聴
まずは御用聞き営業の基本に立ち返り、顧客の話を深く聞くことに徹します。
業務内容、業界の動向、顧客の個人的な関心事まで、あらゆる情報を収集し、顧客理解を深めます。
仮説の構築
収集した情報をもとに、「もしかしたら、お客様はこんなことで困っているのではないか?」「この新製品を使えば、あの課題を解決できるかもしれない」といった仮説を立てます。
小さな提案から始める
いきなり大きな提案をする必要はありません。
「この前の件ですが、もしかしたらこうするともっと良くなるかもしれません」といった、小さな情報提供や改善案を提示してみます。
これは、御用聞きで得た「生の情報」に基づいているため、的外れになる可能性は低いはずです。
対話を通じた課題の共同発見
小さな提案をきっかけに対話を深め、顧客と一緒に課題を明確にしていくプロセスが重要です。
営業担当者が一方的に解決策を押し付けるのではなく、「パートナー」として共に考える姿勢が、さらなる信頼を生みます。
このサイクルを回すことで、御用聞き営業は自然と提案営業へと進化していきます。
それは、顧客にとって「便利な業者」から「なくてはならないビジネスパートナー」へと、その存在価値が格上げされる瞬間でもあります。
まとめ
「御用聞き営業」は、決して時代遅れの営業スタイルではありません。
むしろ、顧客との揺るぎない信頼関係を築き、安定したビジネスの基盤を作るための、普遍的で重要な活動です。その本質は、顧客に寄り添い、深く理解しようとする姿勢にあります。
しかし、その活動だけに安住していては、大きな成長や厳しい競争環境を勝ち抜くことは困難です。
真に目指すべきは、御用聞き営業で培った顧客との信頼関係と深い理解を土壌として、的確で価値ある「提案」という花を咲かせることです。
日々の地道なコミュニケーションから顧客の潜在的なニーズを汲み取り、それを解決するソリューションを提示する。
このハイブリッドなアプローチこそが、これからの時代に求められる営業の理想的な姿と言えるでしょう。
まずは原点に立ち返り、お客様の「御用」を真摯に聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。その先に、きっと新たなビジネスの扉が開かれるはずです。

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