営業メンバーの人材育成は、営業マネージャーにとって最も重要かつ難しい課題の一つです。実際、多くの営業マネージャーが「効果的な育成方法がわからない」と感じており、人材育成の手法に対する悩みは広く共有されています。
その背景には、営業パーソンのスキルが属人的であったり、体系的な教育プログラムが不足していることが挙げられます。これらの課題を解決し、営業成果を高めるためには、効果的で再現性の高いアプローチの導入が不可欠です。
本記事では、「できない営業ができる営業へと変わる」プロセスや、具体的な施策、成功している営業の行動から導き出した効果的な人材育成方法を解説します。
この記事の内容
営業人材育成の現状
営業パーソンの育成に悩んでいるマネージャーの方も多いのではないでしょうか?まずは、営業人材育成の現状について解説します。
営業マネージャーの89.6%は営業の人材教育に関する課題を抱えている
ソフトブレーンが行った「営業の人材育成についての実態調査」によると、営業マネージャーの89.6%が人材教育や育成に課題を感じていると回答しています。 具体的には、以下の課題が挙げられます。
- 若手の営業成績がなかなか上がらない
- 営業ノルマの達成が、特定の“スーパー”営業頼りになっている
- 成績優秀でも後輩指導や人材育成が上手くできない
課題の共通点は「人材育成の仕組みや教育体制の不足」にあります。
これらの課題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか。
営業活動の重要なフェーズである商談やクロージングでは、人の関与が欠かせません。そのため、成果を向上させるための最善の解決策は「できる営業パーソンを増やすこと」、つまり、効果的な人材育成を行うことです。
「営業育成」を課題に挙げている企業の36.7%は「営業育成に取り組んでいない」
営業スクリプトの自動作成ツールを提供する株式会社UKABUが2022年3月に実施した「営業組織の課題」に関する調査によると、「営業の育成」を課題とする企業の36.7%が、実際には何も取り組んでいないと回答しています。
一方で、何らかの取り組みをしている企業も存在しますが、その多くは資料作成や学び合いといった表面的な施策に留まっており、継続的に学び合う仕組みの導入には至っていないのが現状です。
営業育成の難易度が上がっている背景
次に、営業育成の難易度が年々上がっている理由について解説します。
外部環境の変化
営業担当者の育成が難しくなっている背景には、生産技術の発達、グローバル化、異業種の参入が影響しています。これにより製造コストが下がり、製品やサービスの差別化が難しくなり、顧客の課題解決力が求められるようになりました。
さらに、インターネットの普及により顧客が自ら情報収集しやすくなり、従来の情報提供型の営業スタイルでは通用しなくなっています。そのため、自社の製品・サービスを活用し、顧客の課題解決を提案する「ソリューション営業」の重要性が高まっています。
関連記事:ソリューション営業とは?必要なスキルや成功のポイントを解説
内部環境の変化
リモートワークやハイブリッドワークの普及により、対面でのコミュニケーションが減少しています。その結果、従来の「仕事を見て学ぶ」OJTの指導方法は通用しにくくなっています。
また、転職の一般化で人材の流動性が高まる中、早期の人材育成の重要性が増しています。しかし、教育体制やマネジメント力の不足が新人のスキルアップを妨げ、結果的に離職につながる悪循環が生まれています。
これらの背景から、従来の属人的なOJTに依存する指導法ではなく、高い専門性を持つ営業パーソンを安定的に育成する体系的な人材育成の必要性が求められています。
成果の出ない営業人材の特徴
営業パーソンの育成方法について知る前に、成果の出にくい営業パーソンの特徴について知っておくことも重要です、
ここでは、成果が出にくい営業担当者に共通する特徴を解説します。
売上目標の設定根拠が不明瞭
営業目標は、毎月達成することで自信を深め、モチベーションを維持するための重要な指標です。
しかし、営業が苦手な人は、自社の現状や過去の実績、季節要因などの具体的な根拠に基づかず、ただ「このぐらい売り上げたい」という漠然とした願望に頼った甘い数字を目標に設定しがちです。
結果として、非現実的な目標が常態化し、成果を出すのが難しくなります。
関連記事:売上目標の正しい立て方とは?売上目標が未達成になる原因と3つの施策
ネクストアクションの設定が不足している
商談を成約に導くためには、商談終了時に必ず具体的な「次の行動(ネクストアクション)」を設定することが不可欠です。
営業が苦手な人は、成約までの道筋が明確になっておらず、例えば「検討してみる」という曖昧な回答に対しても「いつまでにお返事いただけますか?」と具体的な約束を取り付けるなどのアクションができないため、商談が曖昧なまま終わってしまいます。
こうした行動計画の欠如が、成果に結びつかない大きな原因となります。
関連記事:SFAを使った行動管理・プロセス管理のメリットと注意点
成果ノウハウの独占と共有不足
組織全体の営業力向上には、成功事例や有効な営業ノウハウをチーム内で共有することが不可欠です。
しかし、営業が苦手な人は、個人の成果を重視するあまり、自身の成功パターンや知見を他のメンバーと共有せずに抱え込む傾向があります。
その結果、組織全体での営業力強化や部門目標の達成につながらず、個人の成績が孤立してしまうことになります。 組織全体の利益向上を意識した協力体制が欠如していると、たとえ個人の成績が良くても、真に優秀な営業パーソンとは評価されにくくなります。
営業育成で手法の標準化を行うメリット
営業手法を統一し、チーム全体で共有することで、営業の育成が成功し、組織としての成果向上につながります。 ここでは、営業の標準化を行うことの主なメリットを紹介します。
チーム全体の営業成果向上
営業活動を標準化していない場合、個々の営業担当者によって成果にばらつきが生じがちです。 これは、それぞれの担当者が独自の手法に依存し、経験や勘に頼った営業を行っているためです。
しかし、営業のプロセスや成功事例を可視化し、成績の良い営業担当者の手法を分析して共有することで、組織全体のスキル向上が期待できます。
例えば、トップ営業がどのようにアプローチし、どんな言葉を選んで顧客との関係を構築しているのかを学ぶことで、他のメンバーも同様の成果を上げやすくなります。 結果として、チーム全体の営業力が底上げされ、組織として安定した成果を生み出せるようになります。
モチベーション向上と離職率の低下
営業活動に明確な指針がない状態では、何をすべきかわからず、成果が上がらないままプレッシャーを感じることが多くなります。
その結果、モチベーションが低下し、自信を失った担当者が退職してしまうケースも少なくありません。 しかし、営業の標準化によって「成功するための営業プロセス」が明確になれば、営業担当者は「何をすれば成果につながるのか」を理解し、安心して業務に取り組めるようになります。
実際に成果を出しやすくなることで自己肯定感が高まり、やりがいを持って仕事に臨むことができるため、離職率の低下にもつながります。
人材の早期戦力化と教育コストの削減
営業手法が標準化されていれば、新卒採用や中途採用の社員も、効率的にスキルを習得できます。 従来の「とにかく経験を積んで学ぶ」やり方では、個人が成長するまでに時間がかかり、指導する側の負担も大きくなります。
しかし、営業の成功パターンが体系化されていれば、新人は必要なスキルを短期間で身につけられるため、教育期間を短縮できます。
また、新人が早期に成果を上げられるようになれば、企業としての採用コストの回収スピードも早まり、組織全体の生産性向上につながるでしょう。
効果的な営業育成の方法
次に、具体的に営業パーソンを育成する方法について解説します。育成方法として代表的なものは以下の通りです。
営業ロールプレイング
営業ロールプレイングは、実際の営業シーンを想定し、疑似体験を通じてスキルを磨く学習方法です。例えば、先輩営業がクライアント役となり、テレアポの練習を行います。
この手法のメリットは、トークの引き出しを増やし、臨機応変な対応力を養える点にあります。また、顧客視点の理解促進にも役立ちます。新人からベテランまで全員が定期的に参加するのが効果的です。
関連記事:営業ロープレを成功させるコツ|失敗例から学ぶ4つのポイント
営業コーチング
営業コーチング(セールスコーチング)は、部下の気付きを促し、自発的な成長を支援する手法です。教育的な「指導」ではなく、対話を通じて部下自身が解決策を見つけられるよう導きます。例えば、1on1ミーティングで質問を中心に進めるのが典型的です。
関連記事:営業(セールス)コーチングの意味と活用方法とは?|営業組織強化の第一歩
OJT(On-The-Job Training)
OJTは、実務を通じて社員を育成する方法で、上司や先輩が直接指導を行います。実践的で即戦力の育成に効果的ですが、指導者のスキルに依存しやすいのが課題です。
OFF-JT(Off-The-Job Training)
OFF-JTは、業務から離れて研修や座学で知識を学ぶ手法です。基礎知識の習得には優れていますが、実践的なスキル向上には不十分な場合があります。OJTと組み合わせて実施することが推奨されます。
セールスイネーブルメント
セールスイネーブルメントは、テクノロジーを活用し、営業成果を最大化するための統合的な育成手法です。各部門(人事、営業、システム)が連携し、教育施策や営業ツールの効果を測定し、売上向上を目指します。データに基づく評価と改善を繰り返すことで、より効果的な人材育成が実現します。
関連記事:セールスイネーブルメントとは?意味や事例・運用方法を紹介
営業人材の育成計画の立て方
営業育成の手法の次に、営業育成計画の立て方について解説します。
1. 目標設定と計画の立案
営業人材を育成するためには、まず達成すべき目標を明確に設定することが不可欠です。目標が定まっていなければ、どのようなスキルを習得すべきか、どのように成長を促すべきかが不明瞭になり、計画の精度が落ちてしまいます。
目標設定では、定量的・定性的な指標を組み合わせることが重要です。例えば、「半年以内に新規顧客獲得数を20%増加させる」や「3カ月以内に商談の成約率を10%向上させる」といった具体的な指標を設定することで、育成の方向性が明確になります。
目標が決まったら、その目標を達成するために必要なスキルや知識を洗い出し、育成計画の全体像を設計します。これにより、どのような研修が必要か、どのような指導体制が求められるかが可視化され、計画が実行しやすくなります。
2. 現状分析とギャップの特定
目標を設定したら、次に現在の営業担当者のスキルや知識のレベルを分析し、理想像とのギャップを特定します。このギャップ分析を行うことで、どのスキルを優先的に強化すべきかが明確になります。
現状分析には、個別の営業成績のデータや商談記録のレビュー、顧客対応のフィードバック、営業担当者自身の自己評価など、多角的なアプローチを取り入れることが有効です。
また、上司や先輩社員によるヒアリングを実施し、日々の業務における課題を洗い出すことで、より具体的な改善策を導き出せます。
スキルギャップが明確になれば、それを埋めるためのトレーニングやOJTの方向性を定め、個別の育成プランを作成できます。
3. 成功パターンとプロセスの整理
営業成績の良い担当者がどのような行動を取っているのかを分析し、再現可能な「成功パターン」を整理することが重要です。営業は個々のスキルに依存することが多いため、成功事例を共有し標準化することで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができます。
具体的には、トップ営業のヒアリングを行い、成約率が高い商談の進め方、顧客のニーズの引き出し方、提案資料の構成、クロージングのポイントなどを分析します。これらを営業プロセスとしてマニュアル化し、新人や他のメンバーにも適用できる形にすることで、営業力の底上げを図れます。
また、営業プロセスの整理に加え、現在抱えている課題に対する改善策も組み込みます。例えば、「提案段階での説明が冗長になり、顧客の関心を引くポイントが曖昧になっている」という課題があれば、プレゼンテーションスキルを磨くトレーニングを追加するなどの対応を行います。
4. 必要なスキルと知識の洗い出し
営業活動を効果的に進めるために、どのようなスキルや知識が必要かを整理します。具体的には、以下のような項目が挙げられます。
- 商品・サービス知識:自社の製品やサービスを深く理解し、顧客に適切な説明ができるようにする
- 市場・競合分析スキル:業界の動向や競合他社の強み・弱みを把握し、差別化戦略を立てる
- コミュニケーション能力:顧客との信頼関係を構築し、ニーズを正確に把握する
- 交渉力・クロージングスキル:商談を成功に導くための説得力や、価格交渉のテクニックを身につける
- データ分析力:営業活動の結果を数値で分析し、改善につなげる
これらのスキルは、一度身につけたら終わりではなく、常にブラッシュアップしていく必要があります。そのため、継続的な学習環境の整備も育成計画に含めるべきポイントです。
5. 育成プロセスの設計と運用
必要なスキルや知識をどのように習得させるかを設計します。OJTやOFF-JTなどの手法を活用し、研修内容や頻度、フィードバック方法を計画に含めます。育成計画は一度立てて終わりではなく、担当者の成長度や営業目標の進捗に応じて定期的に見直すことが重要です。
振り返りとフィードバックを繰り返し、計画を柔軟に改善することで、営業担当者の持続的な成長と営業成果の向上を目指しましょう。
営業育成に成功するためのポイント
次に、優秀な営業パーソンを育成する際に注意すべきポイントについて解説します。
1. 職場環境の整備
営業パーソンの育成で特に重要なのは、メンバーのモチベーションを高めることです。まず、明確で公平な評価制度を設けることで、メンバーのモチベーションを維持しやすくなります。
正しい評価を感じることで、上司のアドバイスにも素直に耳を傾けるようになります。
また、指導通りに行動できた際にはしっかりと褒めることも重要です。努力を正しく評価し、メンバーの自信とモチベーション向上につなげましょう。
2. 営業プロセスの標準化
営業プロセスが標準化されていない組織では、パフォーマンスにばらつきが生じやすくなります。
組織全体で統一した「営業の型」を作成し、属人的なやり方を排除することで、営業成果の安定化が図れます。
関連記事:営業の属人化はなぜ起こる?4つの原因と7つの解消方法
3. 理想像の明確化
トップセールスの特徴を分析し、それを標準化された営業プロセスに反映させます。
例えば、「ヒアリング力が高い」「顧客ニーズの引き出しが上手い」などの要素を分解し、具体的な行動指標に落とし込むことが重要です。
4. PDCAサイクルの徹底
営業活動だけでなく、育成計画においてもPDCAサイクルの徹底が求められます。
営業担当者は自らのスキルアップを、営業マネージャーはマネジメント能力の向上を意識して、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)のプロセスを回しましょう。
関連記事:PDCAサイクルとは?具体的な運用方法やコツ・注意点を解説
5. セールスイネーブルメントの実践
セールスイネーブルメントは、「売れる営業の仕組み化」を目指す方法論です。これを実践するためには、SFA/CRMツールを活用し、営業情報の可視化とデータに基づく営業活動の最適化を行うことが求められます。
セールスイネーブルメントの実践には、セールスイネーブルメントツールとしてSFA/CRMの活用が欠かせません。
SFAに関する記事はこちら
SFA/CRMを用いて、多彩で膨大な営業情報の蓄積・可視化および分析・改善ができる体制を整える必要があるのです。
例えば、SFAツールのMazrica Salesでは、入力された営業活動のデータを基に画像のようなレポートを自動で作成することができます。

見込み客〜受注までの営業フローをプロセス別に細分化し、各プロセスの歩留まりを集計していくことで課題点の抽出が可能。
各プロセスの歩留まりは個人によって異なるため、営業スキルやパーソナリティに合わせた傾向を割り出し、適切な人材育成が行えるようになるのです。
このほかにも、SFA/CRMでは「売上予測」や「受注率」、「案件進捗率」等の情報を分かりやすく可視化・数値化できるため、セールスイネーブルメントの促進に役立ちます。
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まとめ
記事を読み終えたら、まずは、自社やチームに「できる営業」が多いのか、それとも「できない営業」ばかりになってしまっていないか、現状を把握することから始めてみてください。
今回紹介した方法で、できる営業を増やし、営業力アップ&売上アップを実現させてください。
下記ページにセールスイネーブルメントの実践に生かせるMazrica Salesの強みや、できることをまとめておりますのでぜひご覧ください。

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