「SALES SOFA TALK」は、VUCA時代と言われる今、競争激しいビジネスシーンをサバイブする営業パーソン、経営者・役員・営業責任者の皆様に有益な情報をお届けするトークイベントです。毎回豪華なゲストをお招きし、営業にまつわる旬な話題や課題をテーマに最新のノウハウをお話しいただきます。

第三回目は、株式会社ベーシックの持田雄一氏をゲストにお招きし、「セールスイネーブルメント」について対談しました。

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<GUEST>
株式会社ベーシック
パートナーアライアンス推進室 室長
持田 雄一氏

求人広告 / SEO / Webマーケティングに携わり営業10年程。
アウトバウンド、インバウンド、インサイドセールス、フィールドセールス、様々なセールススタイルを経験。
ベーシック初のSaaS事業「ferret One」においてセールス部を立ち上げ、LTV最大化のための営業方法を確立。
セールス関連のイベントを多数主催/登壇。
2014年:ベーシック入社
2016年:ferret Oneセールス責任者
2020年:現職

<聞き手>
株式会社マツリカ
執行役員 VP of Sales & Marketing
中谷 真史

新卒にて外資系製薬会社へ入社、MR約1000名中トップセールスを経験。その後コンサルティングファーム2社にて、セールス分野のプロジェクトを中心としたコンサルティングに従事。
2018年よりマツリカに入社。カスタマーサクセス統括部長に就任し、顧客のSenses活用による営業成果向上の支援に従事した後、現在では執行役員として営業・マーケティング組織を管掌する。また平行し、Sales Science Lab, Inc. Founder & CEOを務める。

トップセールスが抜けて、受注率40%から、5%に下落

sales-sofa-talk-03-セールスイネーブルメントで受注率を2.5倍にした時の裏話略-1

持田さん:2年前にトップセールスが抜けて、1年目、2年目くらいの若手だけが残って。それまではトップセールスにおんぶに抱っこだったので、あっという間に受注率が落ちました。それをどうにかしようと思ったところが始まりです。

中谷さん:特にベンチャーだと、トップセールスが売れなくなった時のダメージは大きいですよね。

持田さん:彼は別に退職したわけではなく、CSのマネージャーへ異動したんです。受注金額が下がってもいいから、顧客育成をしようという方針に切り替えたタイミングで。

中谷さん:トップセールスだった彼を配置転換する意思決定は素晴らしいですよね。

持田さん:事業成長を考えた時に、CSをテコ入れするべきだと思ったんです。最初はセールスで契約を増やすけど、受注が増えても事例が増えないもどかしさがあって。それはCSがお客様をサクセスさせてあげられていない事もあるのですが、営業が良くなかったのもあったと思うんです。そういう可能性を踏まえた時に、CSに強力な人材、エースを入れるべきだと。

中谷さん:特にサブスクリプションのビジネスモデルだと、どれだけライフタイムバリューを長く大きくできるかがカギですよね。ちなみに、最初かなり売上が落ちたと思うのですが、どこがボトルネックだったのでしょうか。受注率とか?

持田さん:そうです。受注率40%だったのが5%になりました。それは営業ノウハウが属人化していたり、他のメンバーではできないスタイルでやってもらっていたりしていて、結果が出ていればそれで良しとしていたんですね。だけど彼がいなくなった時に、それだとやっぱり困ると。だからセールスイネーブルメントを実践することにしました。

継続的に目標達成するセールスパーソンを輩出する仕組みこそが「イネーブルメント」である

中谷さん:そうなるまで着手できなかったって事は、やるべき事が山積していたのかなと思うのですが、最初はどこから着手されたのでしょう?

持田さん:まず、最初に何をすればいいかっていうのを調べました。その当時、まだイネーブルメントという言葉もなくて。そんなとき、外部セミナーでの講演を聞いて、「なるほどこれだ」としっくりきたんですね。その講演では、継続的に目標達成するセールスパーソンを輩出する仕組みがイネーブルメントの定義と言ってたんです。

当時「育成の仕組み」と検索しても、コンサルみたいな事か、もしくは営業の中の一部を便利にするツールか、そのどちらかしかありませんでした。当時はデータ化こそが有用という風潮が強かったんですね。データ化だけで受注率上がるわけないと思ってて、だからデータ化がイネーブルメントというのはよくわからなくて。

中谷さん:セールスイネーブルメントの定義は、日本よりもセールスが3年から5年進んでいると言われるアメリカでも定まっていないですからね。僕がよく参考にしているMiller Heiman Group、CSO Insightsなどセールス系研究機関が発表するレポートでも、言われている事が変わっていました。だからまず最初に「セールスイネーブルメントとは?」みたいな事を本日ここでお伝えしたくて。

例えばCSO Insightsのアニュアルレポートでは、いわゆる「ダイヤモンド型」の図で説明されているのですが、まず全体の基本理解として「予測可能かつ営業成果を向上させるように設計された戦略的コラボレーションの仕組みの事。それは一貫性があって、規模拡大にも耐える事のできる営業組織強化の仕組み。それは営業パーソンまたはマネージャーがすべての顧客視点で付加価値を提供できることを可能にする。」とありますが、これだけだとなんだかよくわからないですよね。この中でいくつかポイントがあるのですが、それをまとめると、「組織間連携」「データのプラットフォーム構築」「人材育成」「オペレーション効率化」の4つになるのかなと。

ロープレで、潜在的な課題を掘り当てるスキルを磨く

中谷さん:さっきの受注率を上げるという話の中で、「組織間連携」「データのプラットフォーム構築」「人材育成」「オペレーション効率化」という要素だと、どれが一番重要でしたか?

持田さん:育成ですね。育成のデータはあるし、業種、クライアント、商談相手に対する受注率はすぐ出せます。一方、トップセールスがこのお客さんに提案したら受注して商談が進むけど、新人セールスだと進まない事が普通に起こりえます。そうなると、商談の方法が違うのか、単純にコミュニケーションスキルなのか、うまくいかない理由を突き止める決め手みたいなものがなかったんです。

中谷さん:そのときは、SFAのデータを使って失注理由を特定したのでしょうか?

持田さん:いえ、データではわからなかったので、商談の録音を聞いて確認しました。当時、お客さんの事業課題と担当者の課題を整理できていないことが、一番の課題でした。「マーケやりたいんだよね。でも誰も賛同してくれなくて」といった担当者の課題が事業課題だと勝手に思い込んでいたんです。

中谷さん:なるほど。裏に部長や役員がいて、最終的に社長がYESと言わないと契約できない決裁ルートや、社内の相関図が見えないまま、目の前のお客さんに営業していたわけですね。

持田さん:そうです。重要なステークホルダーにたどり着けていない問題もあるし、どう商談を進めればそこにたどり着けるかの道筋も立てられていませんでした。

中谷さん:そこは教えてもらわないと、もしくは天才的にできる人じゃないとわからないと思うのですが、それは持田さんがそこができていたから教えられた、みたいな話ですか?

持田さん:そうですね。それを知っていたからたどり着くまでの道筋を描けたのかもしれません。だけど実際にやったことは、潜在的な課題を掘り当てるロープレなんです。

社内では、このロープレを「免許皆伝ロード」と呼んでいて。「顕在的な悩みを正確に理解できるレベル」を1〜3、「潜在的な課題を突き止められるレベル」を4、「顕在的な課題と潜在的な課題をすべて把握し、お客さんの今の事業に応じた課題の優先順位をつけて「今だったらこれをやるべきですね」と伝えられるレベル」を5のように、営業レベルを5段階にわけて、全て達成した人には「ソムリエ」という称号を与えています。

sales-sofa-talk-03-セールスイネーブルメントで受注率を2.5倍にした時の裏話略-3

受注率2.5倍に!ベーシックのセールス・イネーブルメント実践 「独自講座」と「レベル別ロープレ」より抜粋

また、顧客設定があいまいすぎるとセールスが当てられなくなるため、まず、顧客、会社、担当、課題、問い合わせ内容を具体的に設定します。マーケティングチーム、部長に会って、インサードセールスが聞いていますというところまで設計しておき、それに対してフィールドセールスとしてどうヒアリングし、課題を深堀って、担当者にどう潜在的な課題に気づいてもらうかというヒアリングの練習をしてたんですね。

70%まで平準化し、その先はその人の個性を伸ばしていく

中谷さん:セールスイネーブルメントは、大企業では効率的に思える一方で、スタートアップでは、個人の強みを最大化する方が成果につながる面もあると思うのですが、そのあたりいかがでしょう?

持田さん:個人の強みの最大化の方がいいと思います。個人の強みの最大化は自分で勝手に発揮できちゃうケースと、強みをなかなか見つけられないケースと、二種類あると思っていて、さっきのトップセールスは勝手に見つけられる人だったんです。ただ、そんな人はなかなかいなくて。だから大切なのは、60、70%くらいまで平準化し、成長の過程で強みを発揮するタイミングを見出すことが重要なのかなと。

中谷さん:なるほど。僕も全く同じイメージです。ある一定の所まで引き上げられると、そこで初めてその人の独自性が輝く瞬間があるんです。いくらオリジナリティやクリエイティビティがあっても、基礎がないと上滑りしますからね。

持田さん:スポーツと似ていますよね。基礎体力が必要で、走らなきゃ早くならないみたいな。当然早いフォームをやるけど、ウサインボルトとかになると独自性の領域になりますよね。

中谷さん:今でこそセールスイネーブルメントとか言われてますけど、かつての日本の大企業でいう企画職と本質的には変わらない気がします。

持田さん:そうですね。セールスイネーブルメントが成功している話が多くないのは、営業部が兼務していて根付かずに継続できないからだと思うんですよね。専門部署を立ち上げた方がうまくいくと思います。

中谷さん:ベンチャーだと、立ち上げ当初は全員で売る必要があるけど、組織が大きくなっても、そのままマネージャーが売り続けるみたいな話はよく聞きます。結局、重要度の低いものが未着手で進むことを防ぐには、第三者の視点を持てる専任のマネージャーが必要かもしれませんね。

Q&Aコーナー

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Q:受注率を上げるには、フィールドセールスのレベルアップをすればいいのか、それともインサイドセールスの質問力を高めるのか、どちらが大切ですか?

持田さん:当時は、受注率の低下が課題だったので、フィールドセールスのレベルアップを意識していました。そもそも、インサイドセールスの質問力を高めても、シュートを決める人の質が低いとあまり意味がないと思っていて。雑なパスでもシュートを決められるフィールドセールスを育成する方が成果は出ると思っています。

Q:受注率を上げたことで金額は犠牲になりましたか?

持田さん:いい質問ですね。結果的にいえば、金額は犠牲になりませんでした。実はその意思決定をするタイミングって事業部の方針が大きく変わる時で、年間で単価5、60万くらいのサービスを、350万くらいまで値上げしたんです。金額をあげれば商談の難易度も上がるため、今までと商談方法が変わるうえに、新人教育をしつつ、それに加えて受注率も上げるという状況だったので、かなりハードでしたね。

 

中谷さん:お客様自身に、より大きな課題に気づいてもらうこと、つまり商談の質が上がれば、勝手に案件の単価は上がるみたいな事はよく言われているので、まさにその話に近い内容ですね。

Q:案件の質は何を基準に判断していますか?

持田さん:「BANT」で判断しています。その中でも、特に重視しているのがNeeds(必要性)とTimeframe(導入時期)です。
※Budget(予算) Authority(決裁権)Needs(必要性) Timeframe(導入時期)の略。案件の受注見込み度を図るフレームワーク。

予算は、「検討します」といわれても、あてにならないときもありますね。また、決裁権に関しても、役職がなくても影響力がある人もいれば、逆に役職付きでも影響力がない人もいます。だから、一概に判断しにくい面があります。弊社では、インサイドセールスに「過去にあなたの発案でサービスを導入したことはありますか」と聞いてもらうようにしています。

中谷さん:弊社だと、その部分はフィールドセールスが聞いていますね。SFAの検討は、セールス、経営、マーケター、あらゆる部署に影響が出るので、部署だけでは決められないケースが多くて。「その担当者が導入した経験があるか」「類似のシステムを導入したのは誰か」「取締役会で却下したことがある人は誰か」みたいなことは、繰り返し聞いてもらっています。

Q:CRMを使いこなしているというのは、どのような状態を指しますか?CRMでオンボーディングさえできていない企業が多い中で、CRMの利用が定着せずイネーブルメントも虚像になるイメージです。

中谷さん:たしかに、CRMの活用が前提ですが、例えば、エクセルでも成立している組織って、ものすごく歴史があって、エクセルの専任担当者がいて、関数マクロ使いこなしていて必要なデータがすべて取得できているんですよね。そういった場合は、CRMを活用しなくてもいいと思います。

持田さん:弊社も、あまりCRMを正しく使えていないかもしれません。そもそも、案件進捗の定義があいまいで。

 

中谷さん:それは、例えば、「フェーズ」と「確度」が混同しているみたいな話でしょうか。

 

持田さん:そうですね。

中谷さん:そこはわけた方がいいですね。ただ、営業が受注するときの「気合い」みたいなのは要素としてあると思っていて、それは確度とは別に考えています。「コミットフラグ」といって、コミットする案件、絶対に決まる案件、それとも時期ずれ、もしくは怪しいと思う案件の3つのレベルで検討します。

とはいっても、絶対にCRMを使いこなせなくてはいけないというわけではありません。極論、使っていなくても売上が増えていればそれでいいわけですし、また使いこなせてなくても、売上に必要な「商談数」「成約率」「リードタイム」「案件単価」などのデータをトラッキングできていればそれで充分だと思います。

Q:何名の営業担当者をイネーブルメントして、どのくらいの期間で、トップセールスに戻しましたか?

持田さん:構想〜定着まで9ヶ月くらいで、4〜5名をトップセールスにしました。もともと、リードタイムが商談から受注までで3ヶ月くらいなので、結果が出るまでは少し時間がかかりましたね。

Q:ロープレはどのくらいの期間、どのくらいの頻度で実施しましたか?

持田さん:4ヶ月くらいですね。頻度は週に2回、始業前に行っていました。ロープレは工数がかかりますが、さきほどもお話したように、条件をクリアするとレベルが上がっていく仕組みにしていたので、皆ゲーム感覚で楽しみながらやっていて、あまり苦にはならなかったですね。

Q:ロープレを指導する側が一定のスキルがないとできないと思いますが、課題はありましたか?

持田さん:うちは営業が4〜5人、評価者が2人と規模が小さかったので特に支障はありませんでした。強いていうなら、事前にロープレにおける評価軸をあらかじめ決めていました。例えば、レベルが上がることにお客さん側にニーズが追加されていって、提案側はそれを突き止めないといけない、みたいな設計にしていました。

まとめ

今回のウェビナーでは、持田氏のセールスイネーブルメントを行った実例を、かなり具体的に聞くことができました。次回、第4回目は、「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティング会社の株式会社リンクアンドモチベーションから、VWESTカンパニーシニアコンサルタント 芳川 諒子氏をゲストにお招きし、「営業組織のモチベーションマネジメント」をテーマにお話しを伺います。

SALES SOFA TALK #04 芳川諒子氏

セールスイネーブルメント -経営層・営業マネージャーが取り組むべき営業改革-

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投稿者プロフィール

Mazrica Business Lab. 編集部
Mazrica Business Lab. 編集部
Mazrica Business Lab.はクラウドアプリケーションMazricaの開発・提供を展開する株式会社マツリカが運営するオウンドメディアです。営業・マーケティングに関するノウハウを中心に、ビジネスに関するお役立ち情報を発信しています。
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