ランチェスター戦略とは、元々は戦争理論だったものを経営に置き換えた経営戦略の理論です。
第一の理論と第二の理論があり、それぞれに経営のエッセンスが詰まっています。
この記事では、ランチェスター戦略について説明するだけでなく、それぞれランチェスター戦略で成功した事例を紹介し、具体的なランチェスター戦略の方法について言及します。
この記事の内容
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、元々イギリスの航空工学の研究者F.W.ランチェスターが第一次大戦の際に提唱した戦争理論です。ランチェスターは伝統的な戦闘方式と近代的な戦闘方式では戦闘力の求め方が異なると提唱しました。
この分析が、経営にも応用できると考えられており、日本ではランチェスター戦略を応用した経営理論が多く存在します。
ランチェスター戦略には、第一の理論と第二の理論が存在します。
ここでは両方の理論について順に紹介します。
ランチェスター第一の法則
第一の法則は、伝統的な一騎打ち・局地戦・接近戦を想定しています。
このような戦闘の場合、戦闘力は 武器効率×兵力数 というシンプルな計算式になります。
同じ武器効率同士で戦えば、必ず数の多い方が勝つという考え方です。
例えば、兵力2と兵力4で戦えば、兵力4の方が 1(武器効率) × 4(兵力数) – 1(武器効率)× 2(兵力数) = 2 の差で必ず勝ちます。
ランチェスター第二の法則
一方、第二の法則は近代的な広域戦の場合を想定しています。
このような場合、戦闘力は 武器効率×兵力数の二乗 という式で求めることができます。
この場合、兵力2と兵力4の同じ武器効率のグループで戦えば兵力4の方が 4×4–2×2=12の差で勝つこととなります。
このとき、第一の法則で勝った時よりも兵力の差が広がっていることに注意してください。
逆に考えると、第一の法則では単純な兵力の差のみが実力の差となっているので、武器効率さえあげれば古典的な方法では弱者も強者に勝つチャンスがあるということです。
このことから、第一の法則は弱者の戦略と呼ばれることもあります。
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ランチェスター戦略のメリット・デメリット
続いて、ランチェスター戦略を実施するメリットとデメリットについて説明します。
ランチェスター戦略のメリット
一点集中でニッチ市場を攻略できる
ランチェスター第一の法則が示すように、弱者は「一点集中」で戦うことで、限られたリソース(人員・予算・時間)を最大限に活すことができます。
たとえば、地方の小規模家電店が「薄型テレビのアフターサポート」に特化するといったように、特定の製品・サービス領域で圧倒的な質や接触頻度を実現すれば、大手チェーンと同じ土俵で競う必要がなくなります。
このような戦略をとることで顧客からの信頼を早期に獲得し、小さな市場シェアでも「地域No.1」というブランドイメージを築き市場の攻略ができるようになります。
差別化がしやすく“武器効率”を高められる
ランチェスター戦略では「武器効率=商品力・ブランド力・マーケティング力」の向上が重視されます。
弱者は物量で劣るぶん、サービス品質や顧客体験、ブランド訴求の質を高めることができるのが特徴です。
たとえば、地元飲食店が独自メニューに絞ってSNS発信や口コミを狙えば、大手飲食チェーンでは手が届きにくい「地元ならではの付加価値」を追求できます。
その結果、少ない広告予算でも「話題性」「ロイヤル顧客」を獲得しやすくなり、効率を高めることができます。
局地戦(接近戦)での勝利確率が上がる
ランチェスター第一の法則が適用される「局地戦」においては、弱者でも「兵力数×武器効率」の積がわずかに上回れば勝機があります。
営業でいえば、競合企業が手薄なエリアや顧客層に集中して訪問・提案することで、大手では難しい「顧客との接触回数」を増やし、利益を上げることができるようになります。
ランチェスター戦略のデメリット
標準化・大量生産型ビジネスには向かない場合がある
製造業のなかでも、同質化が進んだ素材や部品、低単価・大量生産が前提のビジネスでは、「一点集中」の領域がそもそも小さすぎるか、差別化が困難なケースがあります。
たとえば、スーパーの青果や日用品のように、商品単価が低く「価格競争」が前提となっている市場では、ランチェスター第一の法則で狙うべき局地(ニッチ領域)が見つかりにくく、結果的に武器効率を上げにくいというリスクがあります。
市場規模の見誤り・セグメント設定の難しさ
ニッチ市場を狙うためには「そもそもその市場が十分な利益を生むか?」を正確に見極める必要があります。
セグメントを絞り込むあまり、対象顧客が限定的すぎてROI(投資対効果)が取れないケースもしばしば起こります。
たとえば、「地域限定×特定年齢層向け」のサービスを企画したものの、顧客数が想定より少なく、営業活動のコストを回収できなかった…といった失敗例が挙げられます。
事前調査不足や誤ったデータ分析によって、「狙うべきポイント」を間違えないよう注意が必要です。
競合のリアクションによるリスク管理が必要
弱者が「一点集中」で攻めたエリアに大手や他の中小企業が反応し、同じニッチ領域にリソースを追加投下してくると、当初の優位性が一気に薄れます。
特にWeb広告やSNSによるプロモーションは参入障壁が低いため、成功事例を真似されやすいという特徴があります。
したがって、ランチェスター戦略を実行する際には「周辺エリアでの競合動向」「広告単価の変動」「商圏内の顧客行動変化」などを定期的にモニタリングし、場合によっては迅速にポジションや訴求ポイントを変更する柔軟性も求められます。
ランチェスター戦略とマーケットシェア理論
ランチェスター理論での弱者・強者の判断には、マーケットシェア理論を用いるのが有効です。
ランチェスター理論を使って、どの程度のシェアを目指せばいいのかが数値として分かります。
7つのシンボル値
シェアの目標数値には、7つの数値があります。
それをまとめたものが以下の図です。
(参考:「世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業」かんき出版)
ここから分かるのは、いかにニッチな市場でも100%を狙うのは得策ではないということです。
100%を狙ってしまうと、市場が硬直し、市場の風通りが悪くなり消費者や事業者にとって良い結果を生みません。
適度な競争があることが望ましいです。
さらに、「存在目標値」はこの市場から撤退するかどうかの判断の見極めの値としても使えます。
シェアが6.8%以下なら、この市場から撤退することも得策でしょう。
しかし、2.8%のシェアさえあれば足がかりとして再び市場に参入する道が開けるので、頭に入れておくといいでしょう。
ランチェスター戦略の営業への応用と具体的事例
関連記事:コアコンピタンスとは?ケイパビリティとの違いや成功事例紹介
では、実際にランチェスター戦略をビジネスに応用してみましょう。
ランチェスターの戦略において、弱者は近接戦・一点集中戦・陽動戦・一騎打ち戦法の4つの戦術を使うことが望ましいと言われます。
それぞれの戦術について詳しく見てみます。
近接戦
まず、顧客に近づいてビジネスを行う接近戦という戦法が存在します。
これは競合他社に近づいて戦うわけではないことに注意してください。
この戦法では、会社はなるべく顧客に近づき、親身になって考えることが重要となります。
顧客と触れ合う時間や頻度を多くし、商談も多く設けることで多くの利益を見込みます。
この戦法は、地元密着型であることが多いです。
関連記事:バリュープロポジションとは?6つの成功例と書き方紹介
・成功事例「でんかのヤマグチ」
このお店は、東京都町田市にある街の電気屋さんですが、薄型テレビの売上が日本一というような驚異的な売上を持っています。
このお店の特徴は、きめ細やかな「御用聞き」営業です。
まずは一軒一軒の店舗での売上を計上し、重要顧客の度合いを決めてから直接家に行って営業を行います。
その際に、前に買った商品のアフターケアを行なったり、何か困っていることが内科を聞いたりしながら少しずつモノを売り込んでいるのです。
雑談などを行いながら人間関係を作り、商品を売り込んでいく「近接戦」の良さがもっとも顕著に出ている成功の例と言えるでしょう。
一点集中戦
この戦法は、力を入れる点を決め、そこに一点集中して店の強みなどを作っていく戦法です。
この戦法で最重要になるのはセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングのSTP分析です。
▶︎▶︎STP分析についてはそれぞれこちらをチェック!
顧客や市場を分析して、どこに顧客の問題点があるかを判断します。
そしてなるべく絞った形で自らの強みを見つけ、そこに一点集中していくのです。
そうして、狭い市場の中でシェアを獲得していくことが狙いとなります。
・成功事例「さわやか」
「さわやか」とは静岡県に展開するチェーンのハンバーグレストランです。
全国にその知名度を誇り、静岡に行った際には必ず「さわやか」のハンバーグを食べるという方もいるのではないでしょうか。
この「さわやか」が行なったランチェスター戦略が一点集中型の戦法です。
メニューを絞り、ハンバーグのみに注力することで「ハンバーグが美味しい店」というブランディングに成功しました。
さらには、静岡県に限定してその勢力を展開することで、地域が限定された特別感も演出。
結果として、街の小さな喫茶店から全国に名を轟かす大人気チェーン店となったのです。
陽動戦
競合他社が思いも寄らない方法で市場を獲得する戦法がこの陽動戦です。
奇をてらったブランディングや販売方法で競合他社との争いに乗り出します。
・成功事例「豆腐屋ジョニー」
「男気」などのキーワードをテーマにした豆腐が「豆腐屋ジョニー」です。
奇抜なパッケージやネーミングにより競合他社の度肝を抜いたこの商品は年商60億以上とも。
普通の豆腐の3倍ほどの値段と趣向を凝らしたパッケージ、インパクトのある名前、値段に実際に比例した美味しさ、などが人気の秘密であり、陽動戦の成功事例と言えます。
ブランディングで奇をてらって内容物がおろそかになるのではなく、実際の豆腐も美味しいという両方がかけ合わさったためにこれだけの人気になったと言えるでしょう。
一騎打ち戦
競合他社が1社しかいない、もしくは極めて少ないようなニッチな所に勝負を挑むのが一騎打ち戦法です。
競合他社が多いところよりも、出来るだけ少ないところを狙ったほうがシェアが獲得しやすいということは一目瞭然であると思います。
ニッチ市場に参入し、上述のシェア41.7%以上を獲得して利益を得ることが目標です。
導入後のフォローアップとKPI設定例
ランチェスター戦略を実践し、ある程度の成果が得られた後は、施策を「継続的に評価・改善」していくフェーズに移りましょう。
ここでは最初に導入後に追うべきKPI(重要業績評価指標)を解説し、次にそれらを実際にどのようにモニタリングし、ダッシュボードを活用して定期チェックするかを説明します。
継続的に見るべきKPI例
市場シェア率
ターゲットエリアや顧客層で、自社売上が全体に占める割合を測ります。
たとえば、町田市内の家電市場で「自社の薄型テレビ売上 ÷ そのエリアの薄型テレビ売上」を計算し、月ごとに比較することで、局地戦の成果を知ることができます。
オンラインでは、特定キーワード経由の購買件数 ÷ 推定市場全体の購買件数で、おおまかなシェアを把握できます。
受注転換率(CVR)
CVRは問い合わせや資料請求などのリード数に対して、実際に成約した割合です。LP(ランディングページ)へのアクセス数に対して何件問い合わせが来たか、さらに商談から成約まで何%つながったかを掛け合わせると、全体の受注率が算出できます。
月次で見ることで「どこで離脱が起きているか」がわかり、営業トークや提案資料の改善ポイントを特定できます。
リード獲得単価(CPA)
CPAは広告費やチラシ費用を、新規リード数で割った値です。
例えば、広告に50万円使ってリード200件を得たなら、CPAは2,500円となります。ただしCPAだけではなく、最終的な成約金額や顧客の年間購買額(LTV)と比べることが大切です。LTV/CPAのバランスを意識し、効率的な予算配分を行いましょう。
リピート率・アップセル率
既存顧客が再度購入してくれた割合(リピート率)や、上位商品・サービスへの乗り換え率(アップセル率)を月次・四半期ごとに確認しましょう。
導入後6か月や1年のタイミングでNPS(顧客推奨度)を測定し、満足度とリピートの相関を見ることで、どの施策が長期的に成果を生むかを理解することができます。
定期チェックポイントとダッシュボード活用術
指標を設定したら、週次・月次・四半期の3つのタイムフレームで振り返る習慣を作ることが肝心です。
週次では広告のクリック数や問い合わせ数、LPの転換率など、短期間で変化が明らかなデータに注目します。
もしCPAが急上昇したりCVRが低下したりすれば、広告クリエイティブやランディングページ、商談トークをすぐに修正し、翌週の数値を見ながら効果を検証します。
これらのチェックをスムーズに行うには、ダッシュボードでの可視化が欠かせません。
定期的な数字確認とダッシュボードを活用した情報共有により、「なぜシェアが伸び悩んでいるのか」「CVRが低下した背景は何か」「CPAの上昇要因は何か」といった原因をチームで議論し、その結果を次の施策に反映させることが、ランチェスター戦略を成功させ続けるための鍵となります。
終わりに
ランチェスター戦略は、幅広い商売に応用できることが強みです。B to Cの商品だけでなくB to Bにも比較的応用の効きやすいビジネス施策でもあると言えるでしょう。
ランチェスター戦略から導かれる戦法を使ってシェアを上げていきましょう。

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