企業のデジタルツールの導入で、「顧客体験」(CX)が可視化されるようにもなり、自社の顧客についてより理解していくことにもつながっています。
マーケティングや営業では「ファネル 」というモデルが採用されてきましたが、「ファネル 」には課題があり、「フライホイール」が新たなモデルとして注目されています。
今回は、デジタルを用いた顧客体験の可視化にフォーカスし、「フライホイール」というモデルについて解説します。
フライホイールとは?
フライホイールとは、卓越した顧客体験の提供を目指して組織全体が結束したときに生み出されるエネルギーを表すためにHubspot社が採用したモデルのことです。
フライホイールを日本語訳すると「はずみ車」。
車輪のような円の中心を「顧客」として、その周りを「マーケティング」「セールス」「カスタマーサービス」が輪のようにつながっている形になっています。
フライホイールでは「回転の速度」「摩擦の大きさ」「サイズ」という3つの要素がエネルギー量を左右すると言われているため、これをビジネスに置き換えて考えます。
「回転速度」については、顧客にとって価値のある情報を提供したり信頼関係を構築したりすることで満足度を高めていくことを、回転速度に例えています。
「摩擦の大きさ」に関してはできるだけ小さいほうがいいので、導入前の不安を解消するための無料トライアルを用意したり、お問い合わせが来たらすぐに対応できるようにしたりすることで、摩擦を軽減することができるでしょう。
回転速度を速めて摩擦を小さくすることができたら、満足度の高い顧客を増やしていくことで、フライホイールのサイズが大きくなっていきます。
こうして3要素が整うことでフライホイールがうまく回り出して、ビジネスが成長していくのです。
そして、顧客を軸とするフライホイールを円滑に回すためには、一連の顧客体験プロセスをより良質なものにマネジメントしていくことが求められます。
もちろん、マーケティング、セールス、カスタマーサービスの3部門の連携がうまくいかなければ、これら3つの要素はうまく回らないためフライホイールも円滑に回転できません。
ファネル からフライホイールへ
フライホイールが注目される前は、従来の顧客体験プロセスのモデルはどのようなものだったのでしょうか?
認知から購入までの購買プロセスとリード数を分析すると、ステップが進むごとにリード数は減っていくため逆三角形のような形になります。
この形を例えて「ファネル(=漏斗)」といい、ファネルを基にマーケティングや営業などのビジネスを組み立てている企業も多いです。
しかしこの「ファネル」には課題があります。
それが、購入や契約という新規顧客獲得のみが目的になってしまっているという点。
新規獲得はもちろん重要ですが、そこがゴールではありません。
本来であれば、購入後のクロスセルやアップセル、良い口コミによる新しいリード産出、フィードバックによる商品・サービスの改善・改良など、既存顧客のロイヤルティ化によって企業を成長させていくことが重要です。
画像: HubSpotブログ
コミュニティマーケティングの実践
フライホイールでは、満足度の高い既存顧客をどんどん増やしていき、そこから新規顧客を生み出したりLTVの最大化を図ったりする取組みが求められます。
そのために効果的なのが、顧客間のコミュニティを作ってマネジメントしていくことで成果につなげていく「コミュニティマーケティング」(コミュニティタッチとも言います)。
今までもコミュニティマーケティングは行われており、オフラインでのユーザー会や講演会がメインでしたが、近年のインターネットやスマホの発達によってオンラインでのコミュニティ運営も広がっています。
最近ではSNSだけでなく、自社でオンラインコミュニティを運営している企業も多くなってきました。
コミュニティマーケティングでは、ユーザー間でのやり取りからリアルな意見をリサーチしたり、既存顧客の投稿で興味を持った新規顧客が開拓できたりするなどの効果が期待できます。
また、欧米ではユーザー間でのFAQにオンラインコミュニティが活用され、カスタマーサポートの業務を削減することに成功している事例もあります。
日本国内でのコミュニティマーケティングの成功事例で最も有名なのは、Amazon Web Serviceの日本コミュニティ「JAWS-UG」でしょう。
JAWS-UGでは企業側からの働きかけはほとんどなく、ユーザー同士で声を掛け合って勉強会や交流イベントなどが行われています。
そして、そのコミュニティで建設的な意見を出し合うことで企業へとフィードバックされ、商材がブラッシュアップされてビジネスが成長していくモデルが構築されています。
マーケットの変化とオンライン化の波
現在、インターネットで検索すればさまざまな情報をすぐに入手することができます。
商品を購入するときもWeb上で機能や品質、利用者の口コミやデメリット、競合他社の商品まで細かく調べてから比較・検討するようになってきました。
特に決裁フローが複雑なB2Bビジネスでは「本当にこの商品(サービス)が自社にとって必要なのか」をロジカルに検討しなければいけないため、情報収集の段階で「必要なし」と判断されてしまうと検討すらしてもらうことができません。
それを裏付けるものとして、2012年のCEB社(現Gartner社)の調査では「初回面談までに購買プロセスの57%が済んでいる」というデータもあります。
初回面談の時点で購買プロセスの中間地点は過ぎているということは、早い段階からリードにとって有益な情報を提供しなければ初回面談にすら到達できないのです。
更に、現在進行中である新型コロナウイルス感染症の流行が、購買プロセスのオンライン化に拍車をかけています。
3密を避けるために展示会やイベントが開催できない。
テレワークによりテレアポや郵送DMが不達。飛び込み営業や訪問商談も不可能。新型コロナの影響により、このようなオフライン施策を打ち出すことができなくなってしまっているのです。
そして、これらの施策に代わるものとしてコンテンツマーケティングやウェビナー、オンライン商談や電子契約などのオンライン施策が加速しており、購買プロセスの大部分をオンラインが占めるようになってきています。
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また、緊急事態宣言中の2020年5月にMcKinsey & Companyが発表した調査結果によると、日本の消費者はオンラインでのセルフサービス型の購買行動、つまりECでの購買がコロナ流行前よりも12%増加していることが明らかになっており、オンライン上で購買プロセスを完結することも多くなっているのです。
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更に、商品やサービスを購入してからの「利用」や「アフターサポート」などのプロセスもオンライン化が進んでいます。
例えば、カスタマーサポートのチャットで問い合わせたり、より詳しい活用方法を知るためにウェビナーに参加したり。
このように、顧客が自社の商材に興味をもって購入してくれて利用を続けてくれるという一連の「顧客体験(CX:Customer Experience)」のオンライン化が進んでいるWITHコロナの時代の今、企業もそれに合わせた施策を次々に打ち出していく必要が出てきており、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取組みが急務になっています。
顧客体験(CX)とは?
顧客体験(CX、Customer Experience)とは、顧客が初めて商品と接してから、検討、購入、アフターケアに至るまでの顧客の経験のことを指します。
以前から、マーケティングの分野では顧客が商品と接する体験に随分重きが置かれてきました。
しかし、顧客体験では、従来のマーケティングにおける部分最適な顧客の体験の重視ではなく、包括的な顧客の体験全体のことを意味しています。
つまり、「顧客にこの部分で嫌な思いをさせないためにはどうすればいいか?」とか、「いかにトラブルを防ぐか?」ということではなく、「顧客の経験する全てにおいて価値をどのように見いだせるだろうか?」という包括的で満遍ない視点が重視されているのです。
顧客体験における5つの価値
顧客体験の提唱者であるバーンド・H・シュミット氏は、顧客の経験する感情的な価値として、5つの価値を提示しています。
すなわち、「Sense(感覚的価値)」「Feel(情緒的価値)」「Think(知的価値)」「Act(行動的価値、ライフスタイルに関わる価値)」「Relate(社会的経験価値)」の5つです。
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Sense(感覚的価値)
読んで字のごとく、感覚を通して提供される価値のことです。心地よい音楽、華やかな香り、柔らかな手触りといった5感を通して感知される価値のことを指します。
Feel(情緒的価値)
顧客の情緒に訴えかける価値です。懐かしい、可愛い、素敵だ、嬉しい、といったプラスの感情に働きかけることが重要となります。
Think(知的価値)
顧客の知的関心を満たすような価値を提供できれば、知的価値の提供は成功したと言えます。顧客の知的な関心や好奇心を満たすことのできる経験や知識の提供のことを指しています。
Act(行動的価値、ライフスタイルに関わる価値)
実際の行動を通して与えられる価値のことを指します。すぐに実践できる新しいライフスタイルの提案や、新しい習い事といった今まで経験したことのない行動が行動的価値です。
Relate(社会的経験価値)
ある集団に属することによって、自分が受けられる恩恵のことを社会的経験価値は指しています。
一般的にはファンクラブなどが想像しやすいでしょう。
ビジネスの世界でも顧客のコミュニティなどが誕生しつつあり、社会的経験価値はそこに分類されます。
これら5つの分類が、顧客体験において重要になってくるのです。
DXの促進による顧客体験(CX)の理解と改善
DXが進むことで、顧客に関するさまざまなデータを計測し、多角的に分析することができるようになります。
顧客が、一連の顧客体験のなかでどのようなことを感じてどのようなことに不満を抱いているのかを経験則ではなくデータとして理解できるようになるため、より効果的な改善プランを設計することができます。
DXとデータ活用による顧客体験(CX)の可視化
コロナショックの影響で働き方が変わったことにより、企業はDXの推進が求められています。
企業におけるDXとは、デジタル技術を駆使することで効率化を図ったり新しいビジネスモデルを構築したりすること、つまりデジタルによる企業内の変革を指します。
DXにおいて必要不可欠なのがデジタルツールの活用。
さまざまなデジタルツールにより、数値だけでなくメールの内容や検索履歴などの定性的なデータも蓄積できるようになりました。
それは顧客との接点が多い営業組織についても当てはまり、営業活動をサポートするITツール=セールステックが数多く展開されています。
SFAやCRM、グループウェアなどのセールステックを導入することで、営業アクションや商談内容などをデータとして蓄積できるようになり、「顧客がどのチャネルから流入してきて、初回面談でどのような反応をし、どのようなプロセスで受注に至ったか」という一連の顧客体験が可視化できるようになりました。
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今までは個人個人の営業に任せきりで属人化していた営業内容がDXによって可視化されることで、顧客体験について理解が深まって、より緻密な戦略を設計していくことができるようになるのです。
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NPSの計測によるボトルネックの把握
ギャラップ社のジョン・H・フレミング氏によると顧客の「満足」には2つの種類があり、価格や機能などで満足する「頭の満足」と使い勝手や接客態度などで満足する「心の満足」があるとしています。
定量的な「頭の満足」をしている顧客は他に価格が安かったり機能が優れていたりする商品に出会うと乗り換えてしまう可能性がある一方、定性的である「心の満足」をしている顧客は愛着をもって使い続けてくれるためLTVが高いのです。
この顧客ロイヤルティを数値化する指標がNPS(ネット・プロモーター・スコア)。
NPSとは顧客に対するアンケートなのですが、「あなたはこの商品(サービス)を家族や友人にどのくらい勧めたいですか?」というシンプルな質問に0点~10点の11段階で評価するものです。
そして0点~6点を「批判者」、7点と8点を「中立者」、9点と10点を「推奨者」と分類し、「推奨者の割合-批判者の割合」からNPS値を計測します。
画像:NTTCom Online Marketing Solutions
NPSが他の顧客満足度調査と異なるのは、顧客は「他者に推奨できるか/できないか」というポイントで判断する点。
商品・サービスに対して総合的に満足していなければ、他者へ勧めることはできませんよね。
そしてその満足度が高いかどうかは、一連の顧客体験が顧客にとって良質であるかどうかに左右されます。
つまりNPSを計測することで、顧客体験をどのように感じているかを把握することができるのです。
例えば、NPSを顧客データと紐づけて分析することで「アフターサポートを受けていない人はNPSが低い」という結果が出たとすると、より一層アフターサポートを充実させることが効果的だとわかります。
また、「1回のみの訪問商談で契約になった顧客より、2回以上訪問した顧客のほうがNPSが高い」ということが分かったとすると、信頼関係の構築を構築してからクロージングをしたほうがいいというアクション分析もできます。
このように、顧客体験とNPSを紐づけて分析することでボトルネックが把握でき、より効果的な次の一手を打ち出すことができるようになるのです。
終わりに
デジタル化が加速している現代では、顧客に関するさまざまな情報をデータ化して可視化し、分析することができるようになっています。
「購入してもらって終わり」ではなく、その後も継続的に関係を構築していくためには良質な顧客体験が必要不可欠な要素となってくるでしょう。
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ファネルという見方からフライホイールへと転換することで顧客体験を俯瞰的に分析できるようになり、満足度の高い顧客(NPSが高い顧客)を生み出していくことにもつながります。
オンラインの波が高まっている今こそ、顧客体験の向上のための施策を打ち出していきましょう。
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