SaaSビジネスにおいて、自社サービスが顧客に受け入れられているか判断する指標として「チャーンレート(解約率)」が重要です。
しかしチャーンレートの計算方法や改善方法がわからない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事ではチャーンレートの種類を踏まえ、それぞれの計算方法について紹介します。またチャーンレートを改善する方法や、SaaSビジネスが目指すべき「ネガティブチャーン」についても解説します。
この記事の内容
チャーンレート(解約率)とは?
チャーンレートは「Churn Rate」と表記され、日本語では「解約率」と直訳できます。つまりチャーンレートとは、一定期間内に顧客が解約した割合を示す指標です。
SaaSビジネスで利益を確保するためには、顧客に継続してサービスを利用し続けてもらわなければいけません。そのため、チャーンレートをいかに低く抑えられるかがポイントになります。
チャーンレートが低ければ、既存顧客を維持しながら新規顧客を獲得でき、安定して利益を伸ばしていくことができます。
したがって、チャーンレートは特にSaaSビジネスにおいて重要視される評価指標となります。
チャーンレートの平均・目安
「どのくらいのチャーンレートを目指したら良いのだろう?」と思う人も多いかもしれませんが、チャーンレートはビジネス形態や業種によって数値が異なります。
たとえばBtoBとBtoCの比較をした調査結果では、BtoBが5%、BtoCが7%となっており、BtoBビジネスのほうがチャーンレートが低くなっています。
また業種別では、以下のような平均値が出ています。
- SaaS:4.79%
- メディア&エンターテインメント:5.23%
- ビジネスサービス:6.25%
- 教育:9.61%
- OTT/SVOD(動画や音楽などのコンテンツ配信サービス):10.01%
このように、ビジネス形態や業種によりチャーンレートの目安は異なりますが、自社のチャーンレートとの比較として覚えておきましょう。
参照:Churn Rate by Industry|Recurly Research
チャーンレートが注目される理由
チャーンレートはSaaSビジネスで重要視されている指標ですが、その理由は以下の3点が挙げられます。
チャーンレートが売上に直結する
チャーンレートはSaaSビジネスにおける売上に直結するため、重要視すべき指標となっています。
チャーンレートが高い場合、解約者数が多いということになり、売上は減少します。
一方、チャーンレートが低い、つまり解約者数が少ない場合、アップセルやクロスセルなどを活用することで売上を伸ばしていけます。
チャーンレートとLTVの関係
SaaSビジネスではLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)も重要視すべき指標です。
実は、チャーンレートはLTVの数値にも影響を与えます。なぜなら数あるLTVの計算式には、以下のものがあるためです。
LTV=ARPU(顧客平均単価)÷チャーンレート もしくは LTV=ARPU×粗利率÷チャーンレート
このように、チャーンレートはLTVの数値にも影響するため、SaaSビジネスにおける売上に直結するのです。
関連記事:LTV(ライフタイムバリュー)とは?意味と計算方法・LTV向上に有効な営業戦略
顧客獲得コストの削減につながる
既存顧客の維持にかかるコストは、新規顧客獲得にかかるコストよりも低いため、チャーンレートを重要視する必要があります。
「1:5の法則」でも知られているように、新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍もかかると言われています。
解約が増えて既存顧客が減少すると、その分の売上を補うために新規顧客を獲得しなければいけません。
しかし新規顧客獲得には膨大なコストがかかるため、売上を維持できても利益は減少するでしょう。
そのためチャーンレートを注意深く分析し、既存顧客を維持することで利益を確保できるのです。
関連記事:顧客獲得の効果的な方法とは?新規開拓からリピーター獲得まで徹底理解
サービスの価値、信頼性の指標になる
SaaSビジネスではサブスクリプション型のサービスが多く展開されていますが、サービスの価値や信頼性を測る指標としてもチャーンレートを用いることができます。
チャーンレートが低いということは、既存顧客はサービスに満足しているため解約をしないと判断できます。
したがってチャーンレートが低ければ、そのサービスに対して顧客が価値を感じ、信頼していると言えるでしょう。
顧客満足度調査を行うだけでなく、チャーンレートの分析により顧客にとっての価値や信頼性を調査することができます。
関連記事:サブスクリプションビジネスとは?成功のポイントや種類を徹底解説
チャーンレートの種類
チャーンレートには、顧客数ベースで計測する「カスタマーチャーンレート」と、収益ベースで計測する「レベニューチャーンレート」の2種類があります。
さらに、その中でも2種類ずつに細分化され、合計4種類のチャーンレートが存在します。
自社の業種や商材の特性などから、どのチャーンレートを使用するか検討しましょう。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、顧客数をベースにして計測します。提供しているサービスの利用料金が一律の場合に活用するチャーンレートです。
カスタマーチャーンレートは、さらに以下2種類があります。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは「顧客数」「ユーザー数」「ライセンス数」で計測するチャーンレートです。主にBtoCサービスで使用します。
アカウントチャーンレート
アカウントチャーンレートは「アカウント数」つまり「企業数」「契約数」で計測します。BtoBサービスでチャーンレートを計測する際に使用します。
レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、収益をベースにして計測します。提供しているサービスに複数の料金プランがある際に活用します。
収益が下がる原因は解約だけでなく、利用料金の低いプランへ変更したダウンセルの場合もあります。したがって解約やダウンセルがどのくらい収益に影響しているか把握できます。
レベニューチャーンレートは、さらに以下2種類があります。
グロスレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレートは、期間内に解約やダウンセルによって損失した収益額をベースにします。前期末もしくは今期頭の収益額から、今期内に損失した収益額を割り出して算出します。
ネットレベルチャーンレート
ネットレベニューチャーンレートは、期間内に解約やダウンセルで損失した収益額だけでなく、アップセルやクロスセルによって得た収益額も対象とする算出方法です。
グロスレベニューチャーンレートよりも、売上全体の把握に役立ちます。
関連記事:カスタマーサクセスツール15選|顧客管理に必要なツールとは?
チャーンレートの計算方法
チャーンレートはカスタマーチャーンレートとレベニューチャーンレートがあり、さらに2種類ずつに分けられています。それぞれ計算方法が異なるため、以下で詳しく解説します。
カスタマーチャーンレートの算出方法
ユーザー数に応じて計算するカスタマーチャーンレートは、以下の計算式により求められます。
カスタマーチャーンレート=期間内の解約ユーザー数÷期間前の総ユーザー数×100
たとえば前月末に100人のユーザーがいて、当月内に5人のユーザーが解約したと仮定して計算してみましょう。
5÷100×100=5%
当月内に新たに契約したユーザー数は考慮されないため、解約数が多いほどパーセンテージも大きくなります。
アカウントチャーンレートの算出方法
企業数に応じて計算するアカウントチャーンレートは、以下の計算式により求められます。
アカウントチャーンレート=期間内の解約企業数÷期間前の総契約企業数×100
たとえば前月末に100社の企業が契約していて、当月内に5社が解約した場合のアカウントチャーンレートは以下になります。
5÷100×100=5%
実際には契約している企業内に複数のユーザーがいるため、カスタマーチャーンレートで計算すると異なる数値になるでしょう。
グロスレベニューチャーンレートの算出方法
グロスレベニューチャーンレートは、MMR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)をベースに計算します。
グロスレベニューチャーンレート=期間内に損失したMRR÷期間前のMRR×100
たとえば以下の条件の場合におけるグロスレベニューチャーンレートを計算してみましょう。
- 前月末のMRR:100万円
- 当月内に解約により損失したMRR:3万円
- 当月内にダウンセルにより損失したMRR:3万円
(3+3)÷100×100=6%
解約やダウンセルによって損失した金額が大きくなるほど、グロスレベニューチャーンレートの数値も大きくなります。
ネットレベニューチャーンレートの算出方法
解約・ダウンセルにより損失したMRRと、アップセル・クロスセルにより増額したMRRを考慮したネットレベニューチャーンレートは、以下の計算式になります。
ネットレベニューチャーンレート=(期間内に損失したMRR-期間内に増額したMRR)÷期間前のMRR×100
以下の場合におけるネットレベニューチャーンレートを計算してみましょう。
- 前月末のMRR:100万円
- 当月内に解約により損失したMRR:3万円
- 当月内にダウンセルにより損失したMRR:3万円
- 当月内にアップセルにより増額したMRR:2万円
- 当月内にクロスセルにより増額したMRR:2万円
(3+3-2-2)÷100×100=2%
この場合、解約・ダウンセルによる損失は出ているものの、アップセル・クロスセルによる増額があったため、グロスレベニューチャーンレートよりも数値は小さくなります。
チャーンレートが悪化する原因
ここでは、チャーンレートが高まる代表的な3つの原因を解説します。
- サービスの品質が低い
- 顧客の状況変化
- 顧客データ分析と顧客対応の不足
サービスの品質が低い
提供する製品やサービスの品質が低ければ、顧客からの不満が増え、解約につながりやすくなります。具体的な原因としては、以下の3つがあります。
・価格と求められる性能がかけ離れている。
・不十分なサポート体制による顧客体験の低下
・競合他社に劣っている
顧客の状況変化
BtoB向けSaaSでは、顧客企業の組織再編や業務変更によりサービス自体が不要になるケースがあります。BtoCでも、顧客の家族構成や生活環境の変化で解約に至ることがあります。
顧客側の事情による解約は、サービス提供側も対策を立てづらい部分です。
>顧客データ分析と顧客対応の不足
顧客データの分析と、その分析結果を活かした顧客フォローが不足していると、顧客離れ(チャーンレート上昇)が生じがちです。
この場合、顧客エンゲージメントの低下が主因となっています。DMやアンケート、アフターフォローを強化し、良好な顧客関係を構築することが肝心です。
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チャーンレートを下げる6つの改善方法
チャーンレートは自社の努力により改善することができます。
単に解約数やダウンセル数を減らすだけでなく、レベニューチャーンレートを用いる場合にはアップセル数・クロスセル数を増やすことでも改善が可能です。
それでは、詳しい改善方法を紹介します。
1. カスタマーサクセスを組織化する
SaaSビジネスでは、既存顧客のフォローを担当するカスタマーサクセス組織が重要視されるようになってきました。
カスタマーサクセスとは、顧客を成功へと導くために伴走する役割の職種です。
従来のカスタマーサービスのように顧客からの問い合わせに対応するのではなく、能動的にアクションを起こす点が異なります。
カスタマーサクセスは、顧客が自社サービスを利用して目標を達成できるよう、利用状況を分析したり活用方法を提案したりして活用を促す役割を担います。
そうして顧客に自社サービスの価値を感じてもらい、解約を未然に防ぐのです。
具体的には、カスタマーサクセスが以下のような施策を行うことでチャーンレートを改善できるでしょう。
既存サービス・機能の活用方法を説明する
顧客は自社サービスを利用していても、活用しきれていないかもしれません。
そこでカスタマーサクセスが利用状況を分析し、まだ顧客が活用できていない機能を見つけ出して使い方を説明します。
また「この機能は、他にもこのように活用できます」「こうしたい場合は、この機能をこう使うと良いですよ」などと活用方法を提案することで、サービスの利用価値を感じてもらえるでしょう。
ユーザーガイドを作る、コンテンツを増やす
顧客が自ら疑問を解決してオンボーディングできるような仕組みを整えることも重要です。
そのためにユーザーガイドやお役立ちコンテンツを作成しましょう。
使っているうちに何か疑問点があっても、問い合わせることが面倒でそのままにしてしまう顧客も少なくありません。
そのまま解約へとつながってしまうケースもあるため、顧客自身で解決できる仕組み作りが求められます。
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2. チャーン(churn)に至る原因を探る
そもそも、顧客がなぜ解約に至るのかという原因を理解しないことには、改善策を打ち出すことも難しいでしょう。そこで、チャーンに至る原因の究明も有効です。
原因を探るには、実際に顧客にヒアリングするような以下の方法が挙げられます。
解約前の顧客にフィードバックをもらう
解約を検討している顧客に、直接フィードバックをもらいましょう。
解約するにあたって「料金が高い」「インターフェースが使いにくかった」「自社の課題解決につながらなかった」などの理由があるはずです。
このようなフィードバックをサービスやフォロー体制に落とし込むことで、同じように感じている顧客の解約を防止できます。
契約中の顧客に満足度アンケートをとる
顧客への満足度アンケートも効果的です。サービスに対して現在どのくらい満足しているかアンケートを取り、不満に感じている顧客はどの点が不満か調査します。
リアルな顧客の声を拾い、サービス改善に役立てましょう。
関連記事:顧客満足度とは?CS向上のための4つのポイントとツール7選
3. ヘルススコアを導入する
ヘルススコアを導入し、サービスに対する顧客の健康状態を数値化する方法も有効です。
ヘルススコアは、顧客のログイン状況や問い合わせ件数、満足度アンケートなどから多角的に算出します。
ヘルススコアの数値が良好であるほど継続してサービスを利用してくれる可能性が高く、数値が低いほど解約のリスクが高いと判断できます。優先すべき顧客が明確になり、効率的にフォローできるでしょう。
関連記事:カスタマーヘルススコアとは?導入のメリットと5つのポイント
4. 顧客をTier分けをする
顧客をTier分けすることで、それぞれのTierに合わせたフォローが可能です。
Tierとは「階層」といった意味を持ち「Tier分け」とは顧客を分類することです。
たとえば利用状況がアクティブだと「Tier1」、利用状況が思わしくないと「Tier3」、その間を「Tier2」とします。また企業規模でTier分けする場合もあります。
Tier分けすることでそれぞれのTierに応じた対応ができるようになり、より顧客が求めているフォローができるでしょう。
5. サービス内容・料金形態を見直す
サービス内容や料金形態の見直しもチャーンレート改善につながります。
顧客からのフィードバックを開発担当に伝えてサービスを改善することで、より顧客のニーズにマッチしたサービスを提供できます。
また解約に際してコストの要因が大きい場合は、料金形態の見直しも必要です。
自社サービスのボトルネックを見極めて対策を取りましょう。
6. 顧客関係を強化するツールを導入する
顧客はサービスに対して愛着や信頼を感じることで、継続的な利用につながります。
利用状況や問い合わせ状況、現在のフォロー状況、そもそもの顧客の課題などの情報を一元管理するために、CRMやSFAといった顧客管理に特化したツールの導入がおすすめです。
また顧客への問い合わせにスピーディに対応できるチャットツールや、顧客が自身で疑問を解決できるFAQツールなども一つの手です。
関連記事:
SaaSビジネスはネガティブチャーンを目指すべき
近年のSaaSビジネスではネガティブチャーンが注目されています。ネガティブチャーンとはSaaSビジネスが目指すべき指標のため、ぜひ覚えておきましょう。
ネガティブチャーンとは?
ネガティブチャーンとは、期間内に損失した収益額よりも、期間内に増額した収益額が上回っている状態を指します。
解約・ダウンセルによって損失があっても、アップセル・ダウンセルにより増額が上回ればネガティブチャーンになります。
ネガティブチャーンの計算方法
ネガティブチャーンを求める際には、ネットレベニューチャーンレートの計算方法を使います。
例として、以下の条件でのネットレベニューチャーンレートを計算してみましょう。
- 前月末のMRR:100万円
- 当月内に解約により損失したMRR:3万円
- 当月内にダウンセルにより損失したMRR:3万円
- 当月内にアップセルにより増額したMRR:5万円
- 当月内にクロスセルにより増額したMRR:5万円
(3+3-5-5)÷100×100=-4%
損失分よりも増額分が上回っているためネットレベニューチャーンレートはマイナスの数値となり、ネガティブチャーンの状態であることがわかります。
ネガティブチャーンの達成方法
ネガティブチャーンを達成するためには、以下の方法が挙げられます。
顧客単価を上げてMRRを上昇させる
1つめが、顧客単価を上げる方法です。たとえばアップセルやクロスセル、料金の値上げなどが挙げられるでしょう。
これらの施策により顧客単価を引き上げることで、損失分を上回ることができます。
関連記事:アップセルとは?クロスセルとの違い・具体事例を解説
顧客のロイヤリティを向上させる
2つめが顧客ロイヤリティの向上です。ロイヤリティが高い顧客はサービスに対する愛着心が深まっている状態のため、継続的な利用が期待できます。
顧客ロイヤリティを向上させると解約数が減少するため、損失額が少なくなりネガティブチャーンを達成できるでしょう。
終わりに|チャーンレートを計算し、改善を目指そう
チャーンレートは経営判断において重要な指標です。チャーンレートが大きすぎると何らかの問題があるということなので、早急な対策が必要となります。
今回は「カスタマーチャーンレート」「アカウントチャーンレート」「グロスレベニューチャーンレート」「ネットレベニューチャーンレート」の計算方法と、チャーンレートの改善方法について紹介しました。ぜひ参考にして自社のチャーンレートを算出し、改善につなげましょう。
またSaaSビジネスではネガティブチャーンの状態が理想です。ネガティブチャーンを達成するための施策も併せてご検討ください。
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